今日紹介するウィスコンシン大学からの論文は毎日繰り返している眠りがこのシナプスの形態変化を誘導するかどうか調べた研究で2月3日号のScienceに掲載された。タイトルは「Ultrastructural evidence for synaptic scaling across the wake/sleep cycle(覚醒・睡眠サイクルによるシナプスの拡大・縮小が起こることの超微細構造的証拠)」だ。
シナプスの変化は神経細胞の興奮により誘導されることから、当然刺激が多い覚醒中に変化が誘導されると考えられる。大脳皮質でのほとんどの興奮性入力は、スパインと呼ばれる樹状突起から飛び出した小さな突起が受けている。一個のニューロンは何百ものスパインから興奮性入力を受けており、他の神経の軸索とスパインの接合部は様々な形を示している。この形態変化はシナプスの強さの変化を反映すると考えられており、覚醒中と睡眠中でスパインの形態が変化する可能性がある。これを確かめるため、睡眠中のマウスと覚醒して動いているマウスの脳皮質のスパインの形態の3次元画像を、シリアルブロックフェイス走査電子顕微鏡で撮影し、統計的に比較したのがこの研究だ。シナプス接合部の肥厚状態、軸索との接合の面積、スパイン先端突起部の体積などを、7000以上のシナプス結合が確認されたスパインについて計測するだけでなく、スパイン先端部に存在するミトコンドリアなどの細胞内小器官も網羅的に調べた研究で、形態学の極致という印象を受ける。
さて結果だが、軸索との接合面積は睡眠により約18%小さくなる。すなわち覚醒・睡眠サイクルに合わせて、軸索接合部が拡大・縮小することを示している。またこの変化は、スパインの密度が高い樹状突起では見られず、スパイン密度の低いところで著明になる。さらに、この変化は接合部の面積が小さいスパインでより著明に見られる。
他にも詳細な比較が行われているが省略して、これを自分なりに解釈すると、軸索との接合が大きく、シナプスに細胞内小器官が少なく、スパインの多い軸索からの神経接合は既に確定しており、興奮性インプットが途切れても変化しないが、それ以外の軸索はまだ可塑性が高く、確定するまで変化し続けると考えられる。もしこれが本当なら、この形態から機能を推定できる点が素晴らしく、これを利用して脳の機能的結合マップを描くことができるような気がする。期待したい。
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