元の記事は
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131101&ng=DGKDASDG3104R_R31C13A0CR8000 を参照ください。
今日日本経済新聞が紹介したのは、京都大学ウィルス研究所の影山さんの研究室と、京大白眉プロジェクトの今吉さん達の共同研究で、神経幹細胞分化の決定が行われる仕組みについての研究だ。神経幹細胞はニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの3種類の細胞へ試験管内で分化できる事がわかっている。どの細胞になるかを決定する分子機構については、特に影山さん達の得意分野で、今回注目している分子のうちHes1分子は影山さん達が発見した分子だ。以前から影山さん達は、この運命を決める分子のレベルが幹細胞で、周期的に上がったり下がったり振動する事の意味を研究して来た。今回、脳を薄く切って試験管内で観察する方法で、まず分化方向が決まっていない幹細胞でこれらの運命決定分子が振動する事を証明した。次に、ニューロンへの分化を決定するAscl1分子を強く発現させると、ニューロンになる。この事から、フラフラした振動状態から、決まった決定因子を常に発現する段階になると、分化が決まることがわかる。最後に、光を使って遺伝子のオン/オフが自由に調節できるように操作したマウスの脳で、Ascl1遺伝子の周期的な発現を維持してやると、分化は進まず未分化のままとどまった。光を当てっぱなしにする(Ascl1が持続的に発現する)としっかりニューロンに分化する。これが研究内容だ。これまでも、未分化な状態では運命決定因子の発現が振動して決まらない状態にあると言う事は示唆されていた。今回影山・今吉さん達は、光で遺伝子の発現を調節すると言うエレガントな方法を使って、遺伝子のレベルが周期的に振動する事が確かに幹細胞状態を維持している事を初めて証明したと思う。
この仕事は、結構プロ好きの仕事だ。それを紹介しようと努力した日経は励ましたいのだが、論文内容はほとんど伝えられていない。論文と記事を比べると、断片的でちぐはぐな感じがする。特に、「再生医療に役立つ可能性」までいくと、日本経済新聞の視点の方が中心になって他の事が無視されている。この研究の重要性は、運命決定因子が周期的に振動することが未分化性維持に重要である事を証明した点だ。勿論、これによって自由に分化を制御できる事は重要だ。しかし、それだけが目的なら他にもいろいろ方法があるだろう。しかし、日経では最初にこのために利用した光遺伝学の方に注目しすぎて、影山・今吉さん達が伝えたかったメッセージを見失っている。やはり記事を書く側の責任として、研究内容を消化する事の重要性を認識して欲しいと感じた。
Ascl1遺伝子の周期的な発現を維持してやると、分化は進まず未分化のままとどまった。光を当てっぱなしにする(Ascl1が持続的に発現する)としっかりニューロンに分化する。
→未分化な状態では運命決定因子の発現が振動して決まらない状態にある。
→未分化状態での運命決定因子の遺伝子発現、人工遺伝子回路のような機構が関与しているのか?興味深いです。