β細胞は大量にインシュリンを作り、それを分泌するように作られた特殊な細胞と言える。この病気はβ細胞以外はほとんど障害されることがないため、一部の患者さんではインシュリン自体が自己抗原として働いている可能性が指摘され、診断にも使われてきた。
今日紹介するライデン大学からの論文は正常のインシュリン以外に、インシュリンmRNAの翻訳が間違ったところから始まる異常インシュリンペプチドが抗原として働いていることを示した研究で3月2日Nature Medicineにオンライン掲載された(doi:10.1038/nm.4289)。タイトルは「Autoimmunity against a defective ribosomal insulin gene product in type I diabetes(I型糖尿病での異常なインシュリン遺伝子翻訳産物に対する自己免疫)」だ。
実はI型糖尿病の発症に強く相関した一塩基多型(SNP)がインシュリン上に存在することが知られていたが、タンパク質に翻訳される領域より下流に存在することから、意味がないとされていた。このグループは、このSNPが、異なる翻訳開始点から翻訳されたペプチドが抗原になっていると目星をつけ、研究を始めている。
遺伝子配列を調べると、開始点として働けるATGが4箇所存在するが、そのうちの341番目の塩基から始まる翻訳では長い異常ペプチドができることがわかった。次にこの開始点が使われているかどうか、下流に蛍光タンパク遺伝子をつないで調べたところ、正常インシュリンとともに、蛍光タンパクも作られること、また細胞にストレスがかかると異常ペプチドの量が上昇することを明らかにした。
以上の結果から、I型糖尿病の患者さんではβ細胞がストレスにさらされたとき、この異常ペプチドが作られ、自己抗原として働くことを示している。これを確認するため、I型糖尿病患者さんのリンパ球で反応を調べると、リスクの高いSNPを持つ患者さんほど、異常ペプチドに対して反応する。また、これまでリスク因子として知られていたHLAを持っている患者さんほど高い反応を示すことが明らかになった。以上、インシュリン遺伝子上のI型糖尿病リスクSNPはおそらく特定のHLAと結合するときの強さを反映しており、その結果β細胞により強く免疫原性のあるペプチドが発現し、細胞が障害されるというシナリオが示された。
この研究ではこのペプチドに特異的なT細胞が確かにβ細胞を障害することを示して、このシナリオが実際に起こっていることを示している。また、異常ペプチドは誰でも作っていると考えられるので、今後全てのI型糖尿病患者さんの免疫反応を調べることで、このシナリオがどの程度当てはまるのかわかるだろう。
抗原が明らかになった後は、ぜひ抑制性T細胞やトレランス誘導などを通じて、免疫反応を抑制し、病気にしない方法も開発して欲しいと思う。
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