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3月4日:生命誕生の痕跡を求めて1:熱水噴出孔の痕跡(3月2日号Nature掲載論文)

2017年3月4日
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   以前ロンドンの自然史博物館を訪れた時、特に感心したのが、実際の化石と化石もどきの展示や、物理力による模様と、生命活動による模様を比較した展示で、生命活動とは何かを教えることに力を入れていた点だった。子供たちに、生物活動と物理活動の違いを考えさせる入り口になると思う。
   しかし、パストゥールの「生命は生命から」のドグマが確立して以来、生命にしかできない過程があることは当たり前だと思っている。ところが、地球上に生命がなかった時代があると考えると、どこかで物理法則だけが支配する地球に、生命が誕生したことになる。
    このギャップは、創造主のような超自然的力を持ち出して説明されることが多かったが、科学はいまこの問題に果敢に挑戦している。そのための一つの方向が、現存の生物の共通祖先(last universal common ancestor: LUCA)の姿を描こうとする研究だ。幸い先週NatureとCellにLUCAを探す研究が掲載されていたので、それを順番に紹介する。
   今日紹介するロンドン・ナノテクノロジーセンターからの論文は、多くの人が最初の生命誕生の場だったサーマルベント(熱水噴出孔)のあった場所に生命の痕跡を求めた論文で3月2日号Natureに掲載された(doi:10.1038/nature21377)。タイトルは「Evidence for early life in earth’s oldest hydrothermall vent precipitates(地球最古の熱水噴出孔の沈殿物に存在する初期の生命の痕跡)」だ。
   生命誕生は40億年前後と考えられているが、この時代の地層が表面に隆起してきている場所が存在する。最も有名なのが37億年前の地層が剥き出ているグリーンランドのイシュアで、この地層に生命の痕跡を求めた論文を昨年紹介した(http://aasj.jp/news/watch/5757)。ただこの研究では、細胞のような形態ではなく、炭素同位元素の選択制から生命活動を推察した研究だった。
   この研究はより古い38億年前から42億年前に、熱水噴出により形成された、鉄を多く含むカナダのNuvvuagittuq supracrustal belt(NSB)の地層に生物の痕跡がないか調べている。
   この時生命の指標にしたのが、
1) hematite filamentと呼ばれる水酸化鉄から出来たフィラメント。活動中の熱水噴出孔でバクテリアを含む細菌叢が噴出物で閉じ込められるとこの構造を取ることが知られている。
2) このヘマタイトの中に鉄を酸化するバクテリアが含まれると作られるチューブ様の均一な構造が数多く見られる。これは、単純な化学反応で説明するには複雑すぎる構造。他にも自立性のバクテリア(オートトロフ)などの痕跡も見られる。
3) 詳しくは説明しないが、ヘマタイト中にほとんど炭酸塩の存在しない鉄が存在できているのも生物作用を想定してしか説明できない。
4) ヘマタイトの中に、バクテリアの沈殿物が酸化した結果としてしか説明できない炭酸塩で出来たロゼット構造が存在する。同じような構造は、他の熱水噴出孔でも見られる。
5) やはり他の熱水噴出孔に見られる、磁鉄鉱の壁で出来た粒子状の構造物(Granuleと呼んでいる)が存在する。
など、鉱物学的結果を合わせると、NBSのヘマタイトは37−42億年前の生物の証拠だと結論している。
   柔道の「一本」は難しいので、「合わせ技」で一本にしているという印象だが、このような探索は、生物誕生に要した時間を考える上で重要なヒントを与えてくれる。37-42億年前、十分な量のバイオマスがすでに存在していたとすると、生命誕生はいつと算定すればいいのだろう。

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