妊娠中の食べ物は胎児ゲノムのメチル化パターンを変化させるこのような例は続々見つかってきており、妊娠中に葉酸やビタミンB12などのメチルドナーの摂取を進めている機関も存在する。しかしなんであれ「過ぎたるは及ばざるが如し」で、葉酸の取りすぎは発生異常や、子供のアトピーを増加させるという報告がある、従って妊婦さんには「なるべくサプリメントを用いず、バランスの良い食事でしっかり栄養をとり、低栄養でダイエットなど考えないよう」というのが基本だろう。
これは母体の話だが、今日紹介するドイツ・ボンにある神経変性疾患研究所からの論文は、マウスモデルではあっても、お父さんがメチルドナーを取りすぎると生まれてきた子供の記憶力が低下しているという恐るべき報告で、Molecular Psychiatryオンライン版に掲載された。タイトルは「Paternal methyl-donor rich diet altered cognitive and neural functions in offspring mice(メチルドナーの多い食事を与えた父親からの子供は認知機能と神経機能が変化する)」だ。
この研究は単純でメチルドナーを多く含む餌を6週間与えた雄マウスと掛け合わせた正常メスマウスからの子供の認知機能や記憶力を定番の方法で調べるとともに、脳の遺伝子発現やDNAメチル化状態を調べている。
この時食べさせた餌には1kgあたり7.5gメチオニン、15gコリン、15gベタイン、15mg葉酸、1.5mgビタミンB12、150mg亜鉛が含まれている。このサプリメントのほとんどは、一般にもサプリとして出回っており、一部は妊婦さんにも効果があるとうたっている。特に葉酸や、ビタミンB12はメチル基を利用するために重要な代謝経路を回す働きがあり、ビタミンドリンクやエネルギードリンクにも含まれている。
結果だが、マウスで使われる定番の認知機能検査、長期記憶検査の成績がこの餌を食べた雄マウスの子供は低下している。また、海馬の脳活動を調べた検査でも、記憶に関わるテータ波の低下がみられ、回路形成に問題があることを示している。
次に脳の遺伝子発現を正常の子供と比べ、様々な遺伝子の発現が変化するとともに、カルシウムイオン濃度と膜電位に応じて開閉するカリウムチャンネル分子の発現が、メチル化により抑制されていることを突き止めている。
最後に異常が誘導された子供マウスにこのチャンネル分子遺伝子を導入すると、異常が治ることまで示している。
この研究だけでは精子形成変化から子供の海馬サーキットの異常まで連なるメカニズムは明らかでない。ただ、父親の精子形成過程で起こったエピジェネティックな変化が子供に伝わることはよく知られている事実で、メチルドナーの多い食事をとった父親の子供のDNAメチル化パターンに変化が誘導され、その中のカリウムチャンネル分子などの発現異常により子供の認知機能や記憶力が低下することは十分ありえると納得できる。
では同じことが人間でも言えるだろうか?これには長い疫学調査が必要で、すぐには結論が出ないだろう。しかし、サプリが効くことを示すには十分な臨床治験が必要だが、サプリが危ないことについては、疑いがあれば避けるということが正しいだろう。
我が国は、トクホ、トクホで、様々なサプリの効果をうたう宣伝が満ち溢れている。元気を取り戻す目的や様々な理由でサプリやエネルギードリンクを飲んでいるお父さんも多いだろう。しかしこの論文のように動物実験であっても、サプリやエネルギードリンクを飲んだ結果が子供に悪い影響を及ぼす可能性が少しでもあるなら、わざわざ金を払ってサプリやドリンクで栄養を補うことはやめたほうがいい。
大変興味深い内容です。
逆もまた真で 病気を発症した人が
メチル基を取れば スイッチオフ出来る
のでしょうか?