AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 4月16日:CRISPRは検査にも使える(Scienceオンライン版掲載論文)

4月16日:CRISPRは検査にも使える(Scienceオンライン版掲載論文)

2017年4月16日
SNSシェア
    何度も強調してきたが、大きなイノベーションはあらゆる分野に広がる。CRISPR/Cas研究を見ればそのことがよくわかる。すなわち効率の良いゲノムやRNA編集が可能になれば、生命情報をいくらでも操作できるということで、DNA,RNA情報に依存する生物を思い通り操作できるということだ。もちろん、中間の過程は理解できているわけではないが、その有効性は情報生物学とも言える分子生物学によって証明済みだ。これは生命を操作するという目的だが、情報操作であれば、人間に情報を伝える方法の開発にも使える。
   今日紹介するハーバード大学のFeng Zhang(CRISPR特許をめぐる法廷闘争で現在話題の研究者だが、光遺伝学を始め様々な技術を開発するアイデアマンだと思う)研究室からの論文はこのシステムを高感度の微生物診断に使える可能性を示した論文で、Scienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2C2(CRISPR-Cas13a/C2C2を用いた遺伝子検査)」だ。
   CRISPR/Casは特異的な核酸を検出するための最強のシステムと言え、このおかげで細菌は外来の核酸から身を守っているが、特異的核酸を認識してから行う酵素反応はまちまちだ。全く知らなかったがZhangのグループはCas13aが特異的に核酸を認識した後、周りに存在する核酸をランダムに分解する活性があることを報告している。直感的に、この方法を用いれば将来特異的に細胞をアポトーシスで殺してしまったりすることができるのではなどと思ったが、Zhangらはまずこの方法を感染性の病原体の検出に応用できるのではと着想して開発を進めている。
   原理は簡単で、目的のRNAやDNAがあればそれにCAS13aが結合し、これにより核酸分解活性がオンになる。この分解活性を使って、同じ反応系に加えておいた蛍光プローブと結合させたRNAが切断されることで誘導される蛍光を指標に、標的遺伝子を検出する方法だ。
   実際には37度で可能な遺伝子増幅を利用して標的核酸を増幅する方法を組み合わせているが、アトモル(10のマイナス18乗)レベルの感度で、特異的な検出が可能になっている。
  後は現在最も問題になっているデングウイルスとジカウイルスの検出を試み、驚くことに20個という少ないウイルス粒子の検出に成功している。また、実際のヒトの血液や尿を用いて同じ方法が利用できることを示している。
   驚くのは、同じシステムを紙に染み込ませた検査スティックを開発できることまで示して、将来誰でも調べることができる、安価な方法の開発が可能であることを示している点で、Zhangら医学のニーズを的確に捉えていることがよくわかる。
  他にも検出の特異性の検定、血液型検査並の簡便な遺伝子型検査方の開発まで書いているが、詳細はいいだろう。Zhangが稀代のバイオテクノロジー開発者として今後も活躍することがよくわかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。