今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、転移性の子宮ガンの局所に浸潤したリンパ球を試験管内で増幅した後患者さんに戻すという免疫療法によりガンの完全退縮が観察された2例について詳しく免疫反応を調べた臨床研究で、4月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「Landscape of immuneogenic tumor antigens in successful immuneotherapy of virally induced epithelial cancer(免疫療法が成功したパピローマウイルスにより誘導された上皮ガン抗原の包括的解析)」だ。
最近のゲノム研究はほとんどの子宮ガンのゲノムに数多くのパピローマウイルスが入り込んで発がん遺伝子を活性化していることが明らかになっている。このことは、多くの子宮ガン細胞ではウイルス抗原が発現して、ガン特異的免疫を誘導している可能性が考えられる。しかし、パピローマウイルス抗原を用いたガンのワクチン療法はうまくいっていない。そこで、この研究ではガン免疫療法が成功した患者さんを選び、この時ガン抗原として働いた分子をT細胞の機能アッセイで詳しく調べている。
結果は、ウイルス抗原に対しても、ガン細胞が発現する変異分子に対しても、T細胞が反応していたという結果だが、この結果よりも少ない症例を徹底的に調べ尽くしている点が最も高く評価できる。我が国でも、ガン特異的リンパ球の移入療法は行われているが、結局効いたか効かないかだけで評価されるだけで、将来へ向けてできるだけ多くのデータを集めようとした研究は少ない。
この研究では、化学療法前にガン局所をIL-2と共に培養し、増殖するリンパ球を集めている。その間、患者さんにはガン増殖を抑えるだけでなく、リンパ球を完全に除去できる化学療法を行い、抑制性のT細胞の働きを抑えたところに、増殖させたリンパ球を注射する。このトライアルで9人の内3人が完全寛解に到達している。そのうち、2人は寛解が54ヶ月、46ヶ月と続いており、この確実に免疫療法が効いた患者さんについて、以下のことを調べている。
まず、ガン浸潤T細胞(TIL)をパピローマウイルス(HPV)抗原とIL-2で増幅して得られるT細胞の反応を調べると、期待通りHPVに対する反応に加え、ガンの遺伝子解析から明らかになったガン抗原に反応するT細胞が含まれていることを確認する。
次に、このT細胞の反応性を、個々の抗原ペプチドを用いて一つづつスクリーニングし、それぞれの患者さんが反応しているガン抗原を同定している。
次に、パピローマウイルスに対するT細胞と、ガン抗原に対するT細胞の抗原受容体を、得られた受容体遺伝子を細胞に導入して再構成する実験で全て決定している。
こうして得られたTILのT細胞受容体の遺伝子配列をもとに、今度は患者さんの末梢血に、ウイルス特異的、あるいはガン抗原特異的T細胞がどの程度存在するのかを調べ、子宮ガンではガン特異的抗原に対する反応が臨床経過に応じて増減していることを明らかにしている。
この大変な実験から、2人の患者さんともパピローマウイルス抗原に対して反応しているが、それ以上にガン特異的抗原に対して反応していること、反応性の細胞は全てPD-1を発現していること、及びガンの増殖が抑えられている間はガン特異的T細胞が末梢血に存在すること、などが明らかになっている。
この結果を基盤に、今度は全ての患者さんに効果を示す治療法の開発が行われるだろう。人間でガン免疫反応を調べるのは、治療を通してしかありえない。この千載一遇のチャンスをしっかり生かしたこの研究は、我が国の臨床研究者も見習うべき点が多いと思う。
1:子宮細胞ゲノムにパピローマウイルスが入り込み発がん
2:子宮ガン細胞ではウイルス抗原が発現、ガン特異的免疫を誘導している可能性あり
3:しかし、パピローマウイルス抗原を用いたガンのワクチン療法はうまくいっていない。なぜ??
→結果:ウイルス抗原に対しても、ガン細胞が発現する変異分子に対しても、T細胞が反応していた。
寛解した2人の患者のT細胞解析:
パピローマウイルス抗原に対して反応している。
それ以上にガン特異的抗原に対して反応している。
反応性細胞は全てPD-1を発現している。
ガンの増殖が抑えられている間はガン特異的T細胞が末梢血に存在する。
→効果を認めた患者様からの生データ、重要な示唆を含んでいると思われます。臨床現場からも工夫次第で、重要な視点を提起できるんですね。