今日(1日目に)紹介するニューヨーク大学からの論文はマウスが課題として与えられたルールに従って行動するときに、このルールの維持に視床が関わっていることを示した論文で、タイトルは「Thalamic amplification of cortical connectivity sustains attentional control(皮質の結合を高める視床の作用で注意力を維持するとができる)」だ。
この研究では音で合図をした後、異なる二つの音のどちらかを聞かせて、その音で指示される行動をとるように促す。この指示には光と音を同時に感じた場合光に反応するか、音に反応するかが決められており、指示どおりの反応をするとほうびがもらえるようにして、訓練する。訓練は完璧で、マウスは指示どおり正しい方をとるようになる。
このとき、前頭前皮質の神経活動を記録すると、指示に従って音を選ぶときに反応する神経と、光を選ぶときに反応する神経が、前もって活動していることがわかる。すなわち、ルールを理解し、行動までの準備が行われている。この行動に備えた準備サーキットでは、指示を聞いたときに反応する細胞から後の方で反応する細胞まで、反応の時間差があるが、全て指示に合わせて活動することから、指示を維持するためのサーキットが形成されているのがわかる。このような例をみると、神経刺激は全て一度サーキットの活動にシンボル化されていいることを本当に実感する。
この研究ではこの前頭前皮質のサーキットの維持に、視床が関わるのではとあたりをつけて、研究を行っている。視床の背内側核を光遺伝学的に抑制すると、期待どおり指示内容を頭の中で維持することができなくなる。特に、指示を受けてすぐから視床の支配を止めると、その効果が強く、指示内容を維持するシナプスリレーの後半に視床の活動を抑制しても影響は少ない。
最も面白いのは、この支配は光の選択、音の選択と、指示のカテゴリーとは無関係で、指示をうけたシナプスリレーを維持するためのエネルギーとして必要なことだ。
この結果を確かめるため、視床の活動を高める実験も行っており、これにより指示どおり反応する確率が上昇する。
実際には同時に数カ所の活動を記録しながら、極めて限られた領域の光による操作ができる方法など、最新の方法を用いて膨大な実験が行われているが、視床の背内側核と前頭前皮質の神経結合が、前頭前皮質内で指示と行動をつなぐシナプスリレーの活動を動機付けていることを示している。
この研究ではあまり議論されていないが、読んで勝手に解釈すると、私たが一定の行動をとるとき、それを行うための動機、フロイト的に言えば力動のメカニズムが少しづつ解明されているような気がして勝手に興奮している。明日は同じ号に発表されたもう一つの視床についての論文を紹介する。