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5月8日:DNA複製が細胞周期に従わなくなったらどうなる?(5月2日号Cell Reports掲載論文)

2017年5月8日
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    私たちのDNA複製はG1期に何千もある複製開始点に複製に関わる分子複合体が集まることで始まる。この複製開始点はORCと呼ばれる分子複合体により認識されるが、このORCに複製に関わるMCMヘリカーゼ複合体を集めてくる主役がCDC6 (AAA-ATPase)とCDT1だ。もちろんこれらの分子の欠損はそのまま死を意味するが、これらの分子の働く時期が狂うと細胞にとっての一大事になる。すなわち、複製は複製開始複合体が形成されるかどうかで決まるため、一回の細胞周期に、複製が一回だけ起こるようにするには、複製開始複合体の開始点への結合が一回だけで終わるように厳しく管理しないと、新しくできた開始点がまた複製を始めてしまう。このため、使ったCDC6やCDT1はDNAから外れると細胞周期の特定の段階のみ働く酵素で分解できるようになっている。分解されるだけでなく、シャペロンであるCDT1にはその機能を抑制するゲミニンが結合して機能を止める。
   今日紹介するスペイン ガン研究センターからの論文は、この複製開始点の細胞周期にリンクした活性を狂わせてみたらどうなるかを調べた研究で5月2日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「In vivo DNA re-replication elicits lethal tissue dysplasias(DNAの再複製が体内で誘導されると致死的な組織形成不全が誘導される)」だ。
   私自身はRe-replication (再複製)というタイトルを見て、「何々」と興味を持って読んでしまったが、要するにCDC6とCDT1を過剰発現させると何が起こるのかという極めて単純な興味に答えた研究だ。もちろんガンではこのような状況が存在するし、また血液細胞ではCDC6がもともと高い。ただ、先も述べたように、細胞に十分量存在する細胞周期特異的なタンパク分解システムが存在するため少々これらの分子を過剰発現させても、細胞はなんとか処理するのではないかと、あえてこのような研究を行う研究者はこれまでいなかったようだ。
   結果は、マウスが成熟後両者の発現を正常の10倍程度高めることができるようにしたトランスジェニックマウスでは、分子を処理しきれず細胞周期にリンクしないDNA複製が起こり、組織の維持が破綻することを示している。
   もちろんこの破綻が細胞内での複製再開によることを示すため、まずトランスジェニックマウスから樹立した繊維芽細胞株を用いて、CDC6,CDT1は細胞周期特異的タンパク分解システムに処理されているが、処理しきれない分子が存在し、開始点へのMCM複合体のロードが2倍に高まっていること、それに合わせてDNA複製フォークの数も上昇していることなどを確認し、CDC6,CDT1両方を発現させた時のみ、再複製を誘導できると結論している。
   あとは様々な段階で両者を体内で発現させた後に何が起こるかを調べている。一番重要な結果は幹細胞についての結果で、両者が発現すると腸管の組織形成が破綻しマウスは死亡する。これ以外にも骨髄、胸腺などで細胞数が減少することが見られる。これは、再複製によりDNAが障害され、細胞死が起こることが主因であることを示しているが、詳細はいいだろう。   要するに、好きな時に細胞周期によるDNA複製の制御を外して、DNA複製を再誘導できる実験系が出来たということだ。結果は予想通りで、驚くほどのことはないが、例えば増殖細胞を特異的に殺して休止期にある幹細胞の機能を見るための幹細胞研究やガン研究に役に立つのではと期待できる。とはいえ、結果はあまりにも予想通りで拍子抜けする。

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