今日紹介するオーストラリア・モナーシュ大学からの論文は、NKR阻害剤が効かない原因として、刺激によりSPに結合したNKRが細胞内エンドゾームに隔離され、そこで神経を刺激し続けるためであると特定した研究で5月31日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Neurokinin 1 receptor signaling in endosomes mediates sustained nociception and is a viable therapeutic target for prolonged pain relief (ニューロキニン1受容体がエンドゾーム内で刺激されることが持続する痛みの原因で、長期効果の有る痛み止めの治療標的になる)」だ。
NKR受容体はGPCRと呼ばれるGタンパク質と結合してシグナルを送るタイプの受容体で、刺激によりエンドゾームに移行することが知られている。この研究ではモデル細胞を用いて、SP刺激によりNKR受容体がエンドゾームに移行し、そこで持続的に刺激を発生し続けること、またこのような長期的な刺激がエンドゾームの合成を止めることで抑制できることを確認し、同じことが体の中で起こっているのか、ラットの後根脊髄神経のスライス組織を使って調べ、SPによる神経興奮がエンドサイトーシスにより持続し、この興奮がエンドサイトーシスによるNKRの細胞内移行を抑制することで抑えることができることを示している。
持続する痛みの原因が刺激を受けたNKRがエンドサイトーシスによりエンドゾームに移行なら、エンドゾーム内へ移行してNLRに結合する阻害剤を開発すれば、神経興奮を抑えられるのではと考え、NKRを阻害する化合物をコレステロールに結合させてその効果を確かめている。
莢膜内にコレステロール結合阻害剤を注射した後、痛み受容体の慢性刺激を誘導する実験系で調べると、痛みが50%以上、しかも持続的に和らぐことが確認されている。
私にとっては新しいアイデアで慢性の痛みのメカニズムと治療法の開発を行った面白い仕事だと思う。もちろん、服用薬を作ることは現段階で難しいと思うが、神経ブロックなどのための薬剤としては期待できるのではないだろうか。
一つだけよくわからないのは、通常の痛み刺激の伝達に、このメカニズムがどの程度関わっているかで、ひょっとしたら痛みはある程度持続させることが重要で、このようなメカニズムが発展したのかもしれないと思った。
レセプターのエンドサイトーシスはオピオイド耐性の発現で論じられますが、痛みの慢性化に関与していたとは驚きです。
ファイザー社はNK1アンタゴニストを制吐剤として開発しましたので、製剤化の工夫による鎮痛剤としての復活を望みたいです。
ブロッカーとしては使えるように思います。