この問題に対しチューリッヒ大学のグループとリトアニア・ビルニュス大学からのグループがそれぞれNatureとScienceのオンライン版に論文を発表し、この謎を解明した(リトアニア単独でトップジャーナルに発表された論文を私は初めて読んだ。大変な力作でレベルが高い。クレメール、ヤンソンス、ヤルビ,マイスキー、ネルソンスなどバルト三国出身の音楽家は現在大活躍だが、科学の振興もしっかり行われているのではという印象を持った)。それぞれタイトルは「Type III CRISPR-Cas systems produce cyclic oligoadenylate second messenger (Type IIICRISPR-Casシステムはサイクリックオリゴアデニル酸をセコンドメッセンジャーを合成する)」及び「A cyclic oligonucleotide signaling pathway in type III CRISPR-Cas systems(Type III CRISPR-Casシステムでのサイクリックオリゴ核酸の役割)」だ。
2つのグループが競争するようにNature,Scienceに論文をほぼ同時に発表している状況なので、論文の詳細を紹介するのはやめて、今回は結論だけを述べることにする。両方とも結論は同じで、Cas10システムによって合成されるサイクリックアデニル酸がCsm6と結合してRNAse活性をオンにすることで、ガイドに近い部分のみでRNAが働くことで侵入したウイルスのみ分解されるというシナリオだ。
結果をもとにType IIIシステムの働く過程をまとめると次のようになる。
Type III CRISPRはRNAポリメラーゼによるウイルスDNAの転写が最初のシグナルになる。転写されたRNAにガイドが結合して、ここにCas10を核としてCsm2,3,4,5の4種類のタンパク質複合体が形成される。Cas10はDNAを分解して侵入ウイルスを分解する。また、Csm3はガイドの結合したRNAを分断する。そしてここからが肝心だが、Cas10のPalm部分がATPを原料に6個のアデニンが環状に結合したサイクリックアデニル酸を合成する。このサイクリックアデニル酸はCsm6と結合してRNAse活性をオンにし、ガイドに近いところに存在するRNAのみ分解するという結果だ。
覚えておられるかもしれないが、哺乳動物の細胞でもRNAseIIIが侵入ウイルスRNAの分解に関わっていることを示す論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/7054)。今回の結果は、Type IIIクリスパーシステムが、真核生物での抗ウイルスシステムの橋渡しとなっている可能性を示唆する面白い結果だ。CRISPRの多様性には、当たり前とはいえいつも感心する。