その後ゲーム産業は右肩上がりで成長し、現在の総売り上げは4兆円に迫る勢いのようだが、同時にゲームの内容も多様化したようだ。
今日紹介するカナダ・モントリオール大学からの論文は、ビデオゲームの脳への影響をMRIを用いて調べた研究でMolecular Psychiatry にオンライン出版された。タイトルは「Impact of video games on plasticity of the hippocampus(海馬の可塑性に対するビデオゲームのインパクト)」だ。
同じような研究はこれまでも何度か行われてきた。その中でこの研究の売りは、1)ゲームを単純に早い反応を競う射撃ゲームと、3次元空間認識を磨いて攻略するナビゲーションゲーム(例えばスーパーマリオなどが使われている)を区別して調べている点、2)ゲーム歴のない学生に90時間ゲーム訓練を行い、反射を高めるゲーム、ナビゲーションゲームそれぞれの海馬への影響を見て、因果性を調べた点だ。実際のゲームの内容はスーパーマリオも含めてほとんど知らないので、間違ったイメージを抱いているかもしれないことを断った上で、結果をまとめると次のようになる。
1) まず週に6時間はゲームに興じる大学生をリクルートし、反射の速さを競うシューティングゲームのプレーヤーと、シューティングゲームは嫌いだが同じようにビデオゲームは週6時間以上プレーする大学生のMRI画像を比べると、シューティングゲーム群では記憶や空間学習に関わる海馬の灰白質(神経細胞体が存在する場所)が明らかに減少している。
2) 次にビデオゲームをほとんどしない学生を集め、半分にはシューティングゲーム、もう半分にはスーパーマリオのような3次元空間ナビゲーションゲームを90時間練習させてMRI検査を行うと、予想どおりシューティングゲームを訓練すると海馬の灰白質が低下するが、逆に空間ナビゲーションゲームの場合は海馬の灰白質が増大する。
3) シューティングゲームを訓練したグループは、感情に関わる扁桃体の灰白質は増大している。
結論としては、反射の速さを競うシューティングゲームに興じていると、確かに反射は訓練できるが、海馬の細胞が減少することは間違いがない。一方戦略を必要とするナビゲームは海馬を増大させるので、今後はシューティングゲームにも空間ナビの要素を加えたゲームを設計し、シューティングゲームの問題点を解決することが必要だと述べている。従って、ゲームは間違いなく脳の器質的変化をもたらす。
しかし、この論文を読んでいて、それまでゲームをしなかった学生が、お金をもらえるとはいえゲームの訓練を受け、その結果海馬の灰白質が減少したなら、かなり重大な介入実験と言える。人間の脳研究をどのように進めるのか、早急に議論が必要だと思う。