今日紹介する米国テキサスのベーラー医科大学からの論文は、もう一つの可能性、すなわちできたMECP2タンパク質の分解を促進する薬剤の開発も治療につながることを示した研究で8月23日号の、Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「An RNA interference screen identifies druggable regulators of MECP2 stability(MECP2分子の安定化に関わる薬剤開発が可能な調節分子をRNA干渉スクリーニングで特定する)」だ。
さすがこの分野の第一人者Zoghbiさんの研究室からの論文で、MECP2分子が様々な修飾を受けていることを熟知しており、この修飾を抑制すれば分子の安定性が壊れ、発現量が減るだろうと考えて、MECP2タンパク質の不安定化につながる分子をRNA干渉法でスクリーニングをかけている。探索の対象としては、薬剤開発がしやすいリン酸化酵素と、脱リン酸化酵素に的を絞って、総数873種類の分子の関与を調べ、最終的にPPP2R1Aと呼ばれる脱リン酸化酵素、HIPK1,HIPK2,RIOK1と呼ばれるリン酸化酵素の発現を抑えると、MECP2タンパク質の発現量が低下することを明らかにしている。
リン酸化酵素についてはMECP2分子上のリン酸化される部位を特定し、リン酸化により他の分子との相互作用が進むことで分子が安定化するのだろうと考えているようだが、リン酸化されること以上の解析は行っていない。ただ、例えばHIPK2が欠損したマウスでは脳内のMECP2の量が減っていることを示しており、これらのリン酸化を阻害する薬剤開発は治療に直結することを示している。おそらく、MECP2重複症マウスでHIPK1,2を欠損させて病気の発症が抑えられるかなど研究が進んでいると思う。
特異性は低いがすでに利用できる阻害剤がある脱リン酸化酵素PP2Aについては、ほとんど生化学的解析は行わず、すぐに治療実験を行っている。疾患モデルマウスの脳内に阻害剤fostriecinを直接投与することで、MECP2タンパク質の量が減り、さらにロタロッドテストが正常化することまで示している。
患者さんに期待されているこの分野の第一人者だけに、より効果の高い安全な薬剤開発までには時間がかかることをはっきり述べているが、優秀な創薬に関わる化学者は多い。至適化された薬剤もその気になれば早く開発できるだろう。
さらに、リン酸化酵素、脱リン酸化酵素以外にも薬剤開発可能な経路は存在する。他の可能性もぜひ追求して欲しいと思う。というのも、分子が余分に発現することで起こる病気は多い。例えば染色体が3本になるダウン症に対しても、重要な分子についてはこの方法を使う可能性がある。開発促進を願っている。
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差し出がましいようですが,
>HPK1,HPK2,RIOK1と呼ばれるリン酸化酵素
このHPKはHIPK1,HIPK2のことかと思われます.
HPK1/2も別キナーゼとして存在しておりますので,
誤解されてしまうかもしれません.
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