うつ病については神経細胞の減少とともに、様々な炎症が重要な修飾因子になっている可能性が示唆されている。例えば、脳に炎症が起こるとうつ症状が出るし、抗うつ剤の効かない患者さんの血液検査では炎症マーカーが上昇していることが知られている。
今日紹介する英国マンチェスター大学からの論文は最も典型的な「大うつ病」と診断されるうつ病の脳に炎症が起こっているかどうかPET検査で調べた研究でBiological Psychiatryオンライン版に先行発表された。タイトルは「Elevated translocator protein in anterior cingulated in major depression and a role for inflammation in suicidal thinking: a positoron emission tomography study(前帯状皮質のtranslocatorタンパク質は大うつ病で上昇し、自殺念慮に関わる:PETを用いた研究)」だ。
この研究では炎症に対してミクログリアが活性化することを利用してうつ病に炎症が関わるか調べている。というのも、最近ミクログリアが活性化されると合成が上昇するミトコンドリア分子translocator proteinと結合するリガンドPK11195が開発され、脳内の炎症をPETで調べることが可能になってきたからだ。研究では17人の大うつ病の患者さん14名、正常人13名に放射線標識したPK11195を注入、前帯状皮質、前頭前皮質、および島皮質のtranslocatorタンパク質の脳内各部位での量を調べている。いくつか対照に選んだ脳領域では正常人と大うつ病では差がないが、先に挙げた3領域、特に前帯状皮質でtranslocator proteinの合成が約50%上昇していることを突き止める。
次に自殺念慮のある患者さんと、自殺は考えていないが大うつ病の症状のある患者さんを分けて同じ検査を行うと、驚くなかれ自殺念慮を持つ患者さんではtranslocatorタンパク質の量が平均で2倍に上がっており、ほとんどの患者さんが正常対照より高い値を示して、診断的価値があることがわかった。
話はこれだけで、ではなぜミクログリアが前帯状皮質で上昇すると自殺念慮を考えるのかは全くわからないし、診断的価値なら診察時によく話を聞けばいいことのように思える。しかしうつ状態でも自殺に至るにはモチベーションを高める動機が必要になる。局所での炎症とミクログリアの活性がその後押しになるなら、面白い研究分野に発展するように思える。ほとんどの病気が炎症に収束してしまうのは少し心配になるが、期待したい。