この研究では脂肪組織マクロファージ (ATM)を分離し、蛍光ラベルしたmiRNAを取り込ませた後、試験管内で蛍光ラベルmiRNAを含むエクソゾームが分泌されるか調べ、期待通り30-100nmの大きさのエクソゾームが分泌され、共培養した脂肪細胞に取り込まれることを確認している。
次に肥満マウスのATM由来エクソゾームを分離、それを正常マウスの静脈内に注射すると、耐糖能が低下、インシュリン抵抗性が誘導される。すなわち、インシュリンが効きにくくなっているが、これは肝臓や筋肉でインシュリンによって誘導されるリン酸化AKTの低下、PPARγの低下、そしてブドウ糖のトランスポーター GLUT4低下によると確認される。
このインシュリン抵抗性は、試験管内でも誘導することができる。この系を使って、miRNA合成を止めたATMのエクソゾームの活性を調べると、エクソゾームによるインシュリン抵抗性が消えるので、エクソゾーム中のmiRNAが活性の主役であることを確認している。
この話なら、まあこんなこともあるかと思って終わるのだが、この研究では次に痩せたマウスのATMからエクソゾームを調整し、今度は肥満マウスに注射して、なんと肥満によるインシュリン抵抗性が正常化することを示している。この発見がハイライトと言っていい。
以上の結果は、肥満マウスのATMと痩せマウスのATMは全く反対の作用を持ち、これが含まれるmiRNAの差によることを示している。そこで、肥満によりATMが発現するmiRNAがどう変化するかを調べると、肥満で上昇するmiRNAと痩せで上昇するmiRNAが見事に分かれ、肥満で上昇するmiRNAにはこれまで肥満との関係が示されていたmR155が含まれて、肥満マウスATMエクソゾームに多く含まれること、mR155によりインシュリン抵抗性が誘導されること、さらに痩せマウスのエクソゾーム注射でmR155が低下することを明らかにしている。
様々なmiRNAが変化しているのに、結局これまでわかっていたmR155の話に収束して、mR155がインシュリン抵抗性を誘導する張本人であると結論して終わっているのは残念だ。私を始め多くの人が興味を持つ、どうして痩せのmiRNAが肥満ATMのmR155を抑えインシュリン抵抗性を付与できるのは結局何も答えられていない。また、人間の肥満ATMでも同じことがいえるのかも知りたい。
腸内細菌を移植しても、エクソゾーム注射でもインシュリン抵抗性が改善するという話は、何か特殊な面からだけ人間の状態を判断している危惧を感じてしまう。まだまだ、論文のための論文で終わる心配は払拭できていない。