思い込みで薬の効果が生まれるプラセボ効果はほとんどの人に馴染みがあると思うが、タイトルにあるノセボ効果は馴染みが薄いかもしれない。これはプラセボの逆で、何も入っていない偽薬でも投薬を受けたと思うだけで、副作用が出ることを指す。従って、新しい薬剤やワクチンの治験では、プラセボ効果と共に、ノセボ効果が同時に調べられている。
この研究では、健康な人にアトピーに対する2種類のクリームの安全性を調べる試験を行うという設定にしている。使うクリームは偽薬だが、パッケージだけを変えて一目で値段が安い、あるいは高いと思わせるよう仕向けている。次に、被験者にコントロール(含まれる成分は同じ)とノセボの両方を腕に塗ってもらって、ノセボと比較させるが、最初ノセボの方を少し熱くしておいて、ノセボの方が知覚過敏を誘導しているという先入観を与えておく。
こうしてノセボに対する先入観を植え付けておいて、次に同じノセボを今度は温度をコントロールと同じにして腕に塗り比較させるが、この時脳と脊髄の機能的MRIを同時に撮影、皮膚の痛み感覚神経の活動と、脳の活動を測定し、脊髄での痛み感覚にクリームの値段に関する知識がどのように相互作用するか調べている。
簡単な話に聞こえるかもしれないが、実は脳と脊髄のMRIを同時に撮影することは簡単でなく、この測定方法を開発したことがこの研究の最も大きなハイライトだ。
さて、結果だが、ちょっと温度を変えるだけでノセボ効果を誘導することができる。この研究では、このノセボ効果が、値段が高いクリームという思い込みによってより強まり、感覚過敏も長く続くと訴えることを明らかにしている。このように、私たちはちょっとしたきっかけで、薬に対する思い込みを形成してしまい、これが副作用の訴えにつながることがはっきりした。さらに、値段が高いと、よく効く成分が含まれており、副作用も強いと考えてしまうことも確認された。
この時、機能的MRI検査を行うと、腕の感覚神経が走る第6頚椎(C6)レベルの脊髄を含め様々な場所が活動しているのを捉えることができるが、値段に対する思い込みで最も差が出るのが、C6脊髄の中央後ろ側、中脳の水道周囲灰白質(PAG)、そして前帯状皮質(ACC)で、C6とPAGはノセボ効果と比例する一方、ACCの活動は反比例することがわかった。
この結果は、値段が高いという思い込みは、ACCの活動を抑え、その結果抑制が外れたPAGの活動が上昇して、C6感覚に強く介入するというシナリオを示唆している。
「良薬口に苦し」ならぬ、「良薬と思えば口に苦し」の回路が明らかになった。この回路は、これまでのプラセボ効果研究で明らかにされていた回路で、ノセボに関わっていると聞いても特に驚きはないのだが、実際の中枢神経活動の差として示されると、副作用の評価がいかに困難かよくわかる。
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