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1月17日:生殖器の動きを制御する神経回路形成を制御する経験と性(1月11日号Nature掲載論文)

2018年1月17日
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ゴカイの幼生のように、一本の神経細胞だけが、光を感じる色素細胞と、運動に関わる繊毛細胞をつなぐような稀な例もあるが、神経性の最も重要な構造学的基盤は回路形成にある。このおかげで、あらゆる内外の刺激や、記憶を連合させることが可能になり、結果として身体から独立した情報媒体・言語を可能にした。この回路で重要なのは、構造が経験により書き換えられることで、神経の可塑性として知られている現象だ。ただ、神経回路は単純な動物でも十分複雑で、可塑性を観察するには時間がかかるため、これを一本の神経細胞レベルで調べるためには工夫がいる。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、すべての細胞が単一細胞レベルで特定されている線虫の一本の神経を用いて可塑性の成立条件を調べた研究で、1月11日号のNatureに掲載された。タイトルは「Neurexin controls plasticity of a mature sexually dimorphic neuron(Neurexinがオスメスで機能が異なる成熟ニューロンの可塑性を調節している)」だ。

論文を読むと、線虫行動を熟知したプロが、線虫の神経系の特徴を生かして、しかし一般的な問題、可塑性の生物学にチャレンジしているのがよくわかる。

この研究が対象にしたのはDVBと名前がついた運動神経で(線虫のアトラス参照:http://www.wormatlas.org/neurons/Individual%20Neurons/DVBframeset.html)で、雌雄同体型(以後わかりやすいようメスと呼ぶ)では直腸筋肉に投射して排便を調節するが、オスではこれ以外に、受精に必要な針(SC:ペニスと考えればいい)を突き出す時に働く筋肉(PT)にも投射している神経細胞だ。オスだけで生殖時に必要なSCを動かすため、排便と同時にSC運動を調整する役割を持つと考えられ、実際両方の性で直腸を動かす筋肉への投射は共通に存在するが、DVBの神経投射標的は成長過程でオスとメスで大きく変化する。

面白いのはオスの投射パターンが完成するまでの行動を調べると、最初排便とともにSCが飛び出したのが、3日目にはこの動きが消失することで、DVBの機能を抑制すると、この動きを抑えられなくなりSCが飛び出したままになり受精がうまくいかなくなる。すなわち、DVBは最初SCの突出を誘導していたのに、後からはSC運動を抑制するニューロンに役割を変える。そして、オスとHAを一緒に飼育し生殖行動を促すことで、経験依存的にこの役割のスウィッチが完成することを確認する。

そこで、投射される側(SPCニューロンとSCを突き出す筋肉)を光遺伝学的に興奮させるようにして、DVBの投射を調べると、期待どおりSCを動かす運動によって投射が誘導されることが明らかになった。すなわち、標的の興奮により結合を強める典型的なシナプス結合の可塑性が見られることが明らかになった。

あとは線虫お得意の遺伝学を用いて、この可塑性にはDVB側で発現するneurexinと標的で発現するneuroliginが関わっており、neurexinはDVBの神経突起形成を誘導する方向に、neuroliginは抑制する方向で働き、運動によりneuroliginの発現を抑えることで、投射の可塑性が成立することを示している。

話はここまでで、パズルを完成するためにはまだまだ多くのピースをはめていく必要があるが、一本の神経レベルの投射と行動がここまで明確だと、パズルもそう遠くなく完成すると思える。

いずれにせよ、これまで頭の中で想像してきた神経可塑性の一端が細胞学的にしかも目に見える形で明らかになっているのを見ると、さすが線虫の系だと感心する。

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