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1月26日:超高度に保存されたエンハンサーは機能している(1月25日号Cell掲載論文)

2018年1月27日
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論文の中には、著者だけが盛り上がっていても、読んでいる方がなんとなく拍子抜けする研究がある。例えば、これまでの研究結果は、自然の摂理から考えてもおかしいと疑問を投げかけ、もう一度検討し直すと自然の摂理に合致していたという内容がそうだ。確かに自然の摂理に反している現象があれば、その原因を知りたくなる。しかし、この原因がこれまでの実験が不十分だったからと言われてしまうと、結局残るのは当たり前の結論になる。

今日紹介するローレンス・バークレイ研究所からの論文はこの典型的な例で、読者は盛り上がれない典型に思えたが、1月25日号のCellに掲載された。タイトルは「Ultraconserved enhancers are required for normal development(超高度に保存されたエンハンサーは正常発生に必要)」だ。

実際重要な遺伝子調節領域は進化で保存されていることが普通で、このタイトルを見たとき、何をいまさらと思ってしまう。事実、ゲノムプロジェクトの結果、マウスとヒトでDNA配列がほぼ完全に一致している調節領域が数多く発見された。私自身はこれらの進化で保存された領域は重要なのは当たり前だと思っていた。ところが著者らは、これまでの研究でノックアウトしても、マウスに異常が認められない超保存領域が結構あると問題を持ち出す。

確かに200bpもイントロンが完全に一致しているのに、ノックアウトして何も起こらないのは自然の摂理に反する。ぜひ原因を知りたい。そこで著者らは、Arx遺伝子の前後に存在している4つの超高度に保存された領域をモデルとして取り上げ、これらが遺伝子発現に関わるかどうかを、Arxを発現している終脳の細胞での発現、トランスジェニック作成を用いたプロモーターアッセイ、そしてそれぞれの領域のノックアウトの解析などの手法を用いて詳しく解析している。

あらゆる詳細を省いて結論に行くと、4つの領域は、腹側での発現に関わる2領域と、背側の発現に関わる2領域からなっており、それぞれの領域のノックアウトを組み合わせると、マウスは生まれてくるものの、Arxの発現は強く抑制される。さらにノックアウトマウスも、詳しく見ると例えばコリンアセチルとランスフェラーゼ陽性細胞の消失や、介在神経の減少、さらに体全体の成長の遅れなど、異常が認められる。

結果はこれだけで、だとすると保存程度が高い遺伝子発現調節領域は、脳の発生に機能しているという話になり、全く当たり前の結論で終わる。すなわち、これまでの研究が十分でなかったので、進化のルールに反するように思えるが、よく調べると進化のルールは揺るがないという話で終わる。

正直なところ、なぜこの論文がCellに掲載されたのかよくわからない。実際、なぜこれほど完全な一致がなぜ必要なのかについては何も答えていない。転写研究に用いた手法も超古典的で、3次元の染色体構造を含む、重要な可能性についても全く触れられていない。久しぶりに発生学の論文を読もうかと思って手にしたが、フラストレーションだけが残った。

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