幸い様々な原理に基づく一分子シークエンサーが開発され、何万もの長さの塩基配列を読むことが可能になって、この限界が破られ、モデル動物以外のゲノム解読が進んでいる。
これを裏付けるかのように、2月1日号のNatureには再生生物学にとって重要な動物アフロートルとプラナリアのゲノム解読が報告されている。ともにドレスデン・マックスプランク研究所からの論文だが、今日はプラナリアのゲノム解析論文の方を紹介しよう。タイトルは「The genome of Schmidtea mediterranea and the evolution of core cellular mechanisms(Schmidtea mediterranea(地中海プラナリア)のゲノムと細胞の基本機能の進化)」だ。
PacBioと呼ばれる機械を持ちて、一回の解読の平均の長さが2万近くに達しており、この結果を用いて99%の遺伝子をカバーできるゲノム解読に成功している。
とはいえ、完全に穴のない解読かというと、そうではなくプラナリア特有の難しさのため、ゲノムの構造の大枠はほぼ明らかになったものの、各部に多くのギャップが残っている。この理由はプラナリアゲノムのなんと62%が様々な長さの繰り返し配列で、中には30kbを越すものが存在する。このため、同じ方法で解読した例えばショウジョウバエのゲノムと比べると、数多くのギャップが残ってしまう結果になっている。
このような問題はあるものの、このレベルでプラナリアゲノムが解読されたことで、この種を用いた再生生物学の研究は進むと期待できる。我が国で使われているjaponica種や寄生虫の住血吸虫などとの関係も調べているが、それぞれかなり多様化が進んでいることが明らかになった。残念ながら、Japonicaとのもう少し詳しい比較が欲しいところだ。結果は公表されているのだから、ぜひ我が国でも詳しい比較をして欲しいと思った。
というのも、地中海プラナリアのゲノム解析から、この生物が極めて独特の細胞基本機能を発達させていることが明らかになり、その一つは多くの種で保存されているDNA切断に対する修復機構に関わる遺伝子が欠損している点だ。このおかげで、外来遺伝子がゲノムに飛び込みやすくなっていると言えるが、もっと面白いのが、プラナリアの放射線抵抗性で、私たちが全く知らない新しいメカニズムのおかげでこの放射線抵抗性が生まれているとしたら、再生生物学どころか、放射線生物学のモデル動物になる可能性がある。
プラナリア独特のシステムを示唆するもう一つの例が、細胞分裂時、分裂糸の集合のチェックポイントに関わる分子群が、ほぼ全ての動物で保存されているMad1,Mad2遺伝子が欠損している点だ。RNAiを用いた分裂阻害実験から、プラナリアでは微小管とキネトコアの結合に関わる仕組みがユニークであることがわかった。
このように、遺伝子が存在しないということを断言するには、完全なゲノム解析が必要になる。その意味で、この研究の意義は大きい。そして何よりも我々が知っているメカニズムがないということから、我々の知らない新しい細胞の基本機能の分子メカニズムが存在することがわかったことは、再生生物学にとっても大きなヒントになるかもしれない。ますます魅力ある生物であることが明らかになったと思う。