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2月8日 ハダカデバネズミの長寿の秘密(米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2018年2月8日
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普通のげっ歯類の10倍に当たる30年近くの長寿を誇るハダカデバネズミは、動物の寿命に興味を持つ多くの研究者を惹きつけている。一度北大で講義したときにお会いしたが、我が国の三浦恭子さんもこのネズミに惹かれた一人で、暗い湿度の高い部屋で苦労して飼育をしながら研究を続けているのを見せてもらった。さらにこのネズミはガンにもなりにくい。当然、年寄りの私もファンの一人で、いつも外野から、どんな話が出てくるのか楽しみに待っている。

以前紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/4819)、正常のマウスも老化した細胞を除去し続ければ寿命が伸びることが知られている。このことから、このネズミの長寿の秘訣は、細胞が老化しにくいか、あるいは老化した細胞が除去し続けられているのではと考えることができる。今日紹介する米国ロチェスター大学からの論文は、まさにこの問題を調べた研究で米国アカデミー紀要にオンライン出版された。タイトルは「Naked mole rats can undergo developmental, oncogene induced and DNA damaged cellular senescence(ハダカデバネズミは発生時、発ガン遺伝子発現時、DNA損傷時に細胞老化を示す)」だ。

細胞老化で誘導されるβ-gal染色を指標に、ハダカデバネズミと正常マウスの老化細胞を様々な条件で調べ、発生途上で起こる細胞老化、発ガン遺伝子rasを導入した時の細胞老化を調べ、ほとんど差がないことを確認している。すなわち、このネズミの長寿が一般的なストレスによる細胞老化が起こりにくいからではない。

しかし明確な差が見られたのがγ線照射によるストレスを与える実験で、20Gyのような大量照射では同じ程度に細胞老化が誘導されるが、10Gyでは老化の程度が有意に低く、細胞周期の停止も起こりにくいことを示している。

結局明確な差が見られた放射線感受性ということで、γ線照射で誘導される遺伝子を比べている。残念ながら多くの遺伝子が動きすぎ、また差がありすぎて、どの細胞活性に関わる遺伝子が増えているのかといった分類以外に、長寿や癌になりにくい鍵となる分子を特定するには至っていない。その意味では、面白いのではと読み始めて、少しがっかりだ。

この論文の結論も、γ線照射に対する反応が、ハダカデバネズミでランダムではなく、正常マウスよりシステミックで組織化されているという表現を用いている。それでも、活性酸素への反応に関わる遺伝子や、細胞外マトリックス分子がハダカデバネズミだけで強く誘導されるのは面白い。

以上の結果は、ハダカデバネズミの長寿は単純に細胞老化の違いで説明はできないが、放射線に対して組織化された特定の遺伝子発現を示し、この点をより詳細に調べれば秘密の一端が明らかにできるかもしれないことを意味している。

著者らは、放射線抵抗性とともに、ハダカデバネズミがヒアルロン酸を含むマトリックスの分泌能力が高いこと、放射線をあててもp53の誘導がほとんど見られないこと、リソゾーム遺伝子が誘導されること(例えばオートファジーが速やかに起こる?)、老化は起こっても細胞死まで発展しないことなどに注目しているようだが、やはりしり切れとんぼの印象は否めない。

いずれにせよ長寿の秘密はかなり複雑で、一筋縄でいくとは思えない。解明にはまだまだ時間がかかる印象を持った。

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