今日紹介するダナファーバー癌研究所からの論文は癌に免疫抵抗性を与えている分子の網羅的探索研究で、2月16日発行のScienceに掲載された。タイトルは「A major chromatin regulator determines resistance of tumor cells to T cell mediated killing(染色体調節主要因子がガン細胞のキラーT細胞に対する抵抗性を決めている)」だ。
研究ではPD-1チェックポイント治療に抵抗性のメラノーマ細胞株を用いて、これにCas9を発現させ、さらに様々な遺伝子に対応するガイドRNAのライブラリーを、各ガイドが均一に細胞に取り込まれるような条件でガン細胞集団に導入する。これにより、様々な遺伝子が個別にノックアウトされたメラノーマ細胞の集団を得ることができる。また、ノックアウトされた細胞は、その遺伝子に対応するガイドRNAが存在していることを指標に特定できる。このガン細胞集団をキラーT細胞に攻撃させ、生き残った細胞にどのガイドが残っているかを調べることで、キラーT細胞に対する抵抗性を与える分子を特定している。この系で、完全に集団から除去される分子は、発現するとキラーT細胞への感受性が高まる分子で、一方濃縮される分子は、発現するとガンへの抵抗性が高まる分子だと予想される。ガイドRNAから言い換えると、濃縮されたガイドRNAに対応する分子はノックアウトされているし、逆に除去されたガイドRNAに対応する分子は集団に存在していることになる。
例えば、組織適合抗原(MHC)はキラーの認識に必須だ。従って、抵抗性を獲得した細胞の中にはMHCをノックアウトされた細胞が含まれるが、このノックアウトされた細胞が残るということは、MHCに対応するガイドRNAが濃縮されてくることになる。
このスクリーニングにより、予想どおりガン抗原提示に関わる分子がノックアウトされた細胞が濃縮する。他にも、RAS経路や、JAK/STAT経路に関わる分子が、抵抗性の細胞では除去される。
一方、分子を発現する方がより抵抗性に寄与する分子も特定される。幾つかの経路に関わる分子がリストされているが、著者らが最も興味を持ったのがPBAF と呼ばれるクロマチンの構造を調節して、遺伝子の発現に関わる大きな分子複合体の幾つかの成分に対応するガイドRNAが除去されてしまっている点だ。
著者らはこの結果を、PBAFが主にインターフェロン反応性遺伝子全体を抑える作用を持ち、機能が高まっているガンでは、免疫抵抗性が強いからだと解釈している。また、PBAFはPD−L1などの発現抑制にも関わっており、このコンポーネントの一つをノックアウトすると、チェックポイント治療が効きやすくなることを示している。
話はここまでで、今後他のガンや、さらに薬剤が開発可能な標的を明らかにすることが重要になるだろう。ただ、先週紹介した腎臓癌で抗PD-1抗体が効いた患者さんでは、PBAF機能が低下しているというる結果とも一致することから、この実験系は臨床的にも意味のある探索系であることが示唆されることから、今後に期待したい。