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4月2日:細胞増殖分子の機能的探索(4月19日Cell掲載論文)

2018年4月2日
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私が熊本大学で自分の教室を持てるようになった1980年代後半は、細胞増殖に関わる遺伝子が急速に明らかになった時期で、血液学や免疫学ではサイトカインの遺伝子クローニングラッシュだったし、遺伝学的にも増殖に関わる突然変異マウスの遺伝子同定が可能になり、私たちもM-CSFやc-Kitなどに焦点を当てて研究ができた。この頃印象に残っているのは、ランダムに遺伝子を細胞に導入してガン遺伝子を特定する機能的遺伝子探索で、我が国でも例えば京大では同じ棟に教室を持っていた野田さんなどはその典型だったと思う。いずれにせよ、この頃の研究は包括的にスクリーニングを行なっても、機能は個々の遺伝子に絞って研究を行うのが普通だった。

それから20年、ガンゲノム解析が進んだ現在は一つのガンに多くの分子が関わることが分かってしまって、解析が進めば進むほど当時のような増殖に関わる機能的探索が難しくなっている気がする。そんな隙間を埋めるのが今日紹介するハーバード大学からの論文で、4月19日号発行予定のCellに掲載された。タイトルは、「Profound Tissue Specificity in Proliferation Control Underlies Cancer Drivers and Aneuploidy Patterns(細胞増殖のコントロールの組織特異性がガンのドライバー遺伝子の染色体異常の背景に存在する)だ。

タイトルを見て研究者なら、何を今更と思ったと思う。それぞれの細胞は組織特異的な増殖調節機構を持っており、ガンの増殖もこの制限からは逃れられないことは周知の事実だ。しかし一つの組織でガン発生に関わる組織を網羅的に探索する機能研究の数は多くない。この研究では、乳がんとすい臓がんについて、バーコードでラベルし、タモキシフェンで平均的に発現を誘導できるようにした6ー8万のオープンリーディングフレーム(ORF)をレトロウイルスで乳腺と膵管上皮細胞に導入、遺伝子を誘導する条件で10回継代を繰り返した後、培養細胞中に残っている遺伝子をバーコードで特定している。

もしORFが増殖を促進するなら継代により選ばれた増殖力の高い細胞では濃縮されているはずだし、一方細胞の増殖を抑制する遺伝子は全て除去されていると期待される。この方法で、それぞれの細胞について200を越す増殖促進分子が、やはり400ー600種類の増殖を抑制する遺伝子を特定している。個別の遺伝子に焦点を当てない、新しいタイプの機能アッセイが可能になっている。

特定された遺伝子を眺めて一番驚くのは、乳腺細胞、膵管細胞、線維芽細胞の3種類で共通に増殖促進作用が認められるのは3種類しかなく、他は全て組織特異的である点だ。サイクリンなどもっと出てきても良さそうだが、基本増殖メカニズムは十分足りているのだろう。一方、増殖抑制遺伝子については100を越す分子が共通に働いており、発生学的に考えると、なるほど合理的にできていると思う。

とはいえ、それぞれの組織で発がん遺伝子ネットワークとして知られているものは、ほとんど今回の機能アッセイで特定されている。また、ガンに関わるゲノム上のコピー数の変化や、染色体異常と、今回明らかになった遺伝子は相関性が強く、今後このような機能アッセイによる増殖促進、抑制分子のリストがあると、ゲノムの解析もさらに楽になると考えられる。また、クリスパーなどを用いたノックアウト実験も行い、今回特定された遺伝子が確かに増殖に関わることまで調べているので精度も高い。

このように、機能が確認された増殖関連遺伝子のリストが、それぞれの組織で作成できることを示したことがこの研究の重要性で、これ以上詳細に踏み込むことはやめるが、乳がん、すい臓がんという重要なガンを、今回明らかになった遺伝子を眺めながら考えてみることは重要だろう。

これを示す例として挙げられた驚くべき結果は、乳がんの増殖に関わるケラチン関連遺伝子が20個近く発見され、それらがE2Fを介して増殖誘導に関わることがこの研究で発見されたことだ。すなわち、これまでゲノム解析からわかっていたとしても、機能的側面がわからないためそのままになっていた分子が、新しくガンに関わるとして特定できることだ。

是非多くの組織で、同じような機能分子のリストができることを期待する。