昨年9月、炎症により起こる脳の変化を詳しく調べた論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/7378)。この研究によると、炎症で上昇するサイトカインの中でもIL-17が神経細胞に直接働く張本人であり、これを抑制できると炎症が起こっても脳への影響は最小限に止めることができる可能性がある。このように、メカニズムの研究は治療法の開発にとって必須でさらに進むことを期待する。
しかしほとんどの研究は、動物モデルで行うしかない。この動物実験と、疫学による調査をつなぐ研究が必要になるが、今日紹介するオレゴン健康・科学大学からの論文はそれにあたると思い紹介する。タイトルは「Maternal IL-6 during pregnancy can be estimated from newborn brain connectivity and predicts futuree working memory in offspring(妊娠中の母体のIL-6濃度は新生児の脳の結合と将来の作業記憶に相関する)」だ。
この研究では母体の炎症をIL-6濃度で代表させて、生まれてきた子供の新生児期の脳のMRI検査、そして2歳時点での作業記録のテストの間で相関を調べている。IL-6が炎症を反映することはよく知られた事実で、例えば2型糖尿病でのインシュリン抵抗性がIL-6と相関することなどは、2型糖尿病への炎症の関わりを示すと理解されている。
MRI検査は睡眠時に撮影をして、脳の各領域内外の結合性を調べ、これを数値化してIL-6濃度との相関を調べている。そして画像解析を行った対象の中から40人近くを選んで、各瞬間での入力の統合性を支える作業記憶テストを行いっている。
IL-6濃度は単純な指標だが、MRI検査は情報量が多いため、対象にする領域を最初から絞って数値化している。実際には10領域について、領域内、領域間の結合性をデータ化している。結果的に領域内の結合性で10指標、領域間の結合性で45指標を弾き出し、相関を調べている。これにより、IL-6濃度と相関する領域として、1) Salience Networkと呼ばれるある対象にフォーカスを当てるときに働く領域内及び脳活動の安定性維持に関わるCingulo-opercular network、2)空間的注意を向けることに関わるsubcortical netowork, dorsal attention netowork, そしてventral attention network、cellebellar network内外の結合性、そして3)視覚を介した注意に関わるvisual netowork, fronto-parietal network、そしてdorsal attention netoworkの結合性が特に低下することが明らかになった。 これらの領域の機能を確認するため、MRI検査と脳の機能検査が調べられたデータを用いて相関を調べ、これらのネットワークが、各瞬間での入力を統合し、選択するときに必須の作業記憶機能と関わる領域であることがわかる。そこで、MRI検査を行った新生児の中から選んだ46人の作業記憶検査を行い、特に妊娠第3期のIL-6濃度と作業記憶に因果的相関があることを示している。 今流行りのAIを用いて、モデリングと予想性を調べる手法が駆使された研究で、解析データを信じるほかないが、この方法はIL-6だけでなく、ほかのパラメーターについても適用できることから、大変だが期待したい方向の研究だ。特に、自閉症スペクトラムや注意障害などを理解するためにも、ハイリスクグループを早期に特定して、このようなコホートを行うことは重要だ。もし、特定のネットワークを生後に成長させる方法が見つかれば、治療が可能になるかもしれない。