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5月4日 パーキンソン病の神経科学(Natureオンライン掲載論文)

2018年5月4日
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私たちのNPOはなぜかパーキンソン病の患者さんたちとの交流が多いが、付き合ってみると、再生医療でドーパミン神経を再構成させるという根本的治療だけでなく、もっと生理学や薬理学に基づいた、対症療法も大事なことがつくづくわかる。そしてそのためには、パーキンソン病でおこる神経細胞の変化を深く理解する必要がある。

一般的医学として習うパーキンソン病の生理学は、かなり大雑把なもので、「視床・皮質運動回路は、脳の様々な情報が集まる大脳基底核の調整を受けており、この調節はドーパミンが抑制性に、アセチルコリンが興奮性に働いてバランスを取っている。パーキンソン病ではこの抑制が外れるため、基底核が興奮して筋肉が緊張し、震えがくるため運動が障害される」と習う。この知識をやりくりして、患者さんと話したりしているが、患者さんの症状をこれだけで明確に説明できることはまずない。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、マウスの基底核の有棘神経細胞集団の興奮を長期間観察し続けてパーキンソン病の生理学の基礎を確立しようとした論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Diametric neural ensemble dynamics in parkinsonian and dyskinetic state(パーキンソンとディスキネシア状態での相反する神経集団の統一的動態)」だ。

運動の視床皮質回路を抑制的に調節している基底核は、2種類の有棘神経細胞によりバランスが取られている。一つは淡蒼球内節を介して直接視床に影響するdirect pathwayの神経細胞で、もう一つが淡蒼球外節・視床下核を介するindirect pathwayで、この2種類は互いに拮抗していると考えられている。この研究では基底核のdirectおよびindirect有棘細胞集団(dSPNとiSPN)を生きて活動しているマウスで、それぞれを区別して連続的に観察し、運動時、ドーパミンが欠乏したパーキンソン状態、ドーパミンが高まったディスキネジア状態など様々な条件で調べている。基本的には、神経を記録しただけに見える論文だが、多くの細胞を同時にモニターすることがどれほど大変かがひしひしと伝わる研究だ。しかし、この領域でのスタンフォード大学の貢献は群を抜いている印象がある。

詳細を省いて結果をまとめると、
1) dSPNとiSPNはほぼ同じようなタイミングで活動しており、決して反応にずれはない。
2) ただ、運動が始まる前には、興奮するdSPN,iSPNが一つの領域に集中する。すなわち、抑制と興奮がまとまるように調節を受ける。この結果運動回路の抑制と興奮のバランスが取れる。
3) ドーパミンが慢性的に欠乏しつづけると、iSPNは運動時に興奮が正常化する。しかし、dSPNはそのまま変わらない。従って、急性期とは異なる運動バランス状態が成立する。
4) 急性のパーキンソンモデルでドーパミンの量が減ると、dSPNの興奮が低下し、iSPNの興奮が高まる。この結果、抑制が優位になり、不随意運動が高まる。
5) 一方、ドーパミンを投与されディスキネジアが起こるときは、dSPNが過剰に興奮する一方で、iSPNの活動が全般的に抑えられる。
6) パーキンソン、ディスキネジアのどちらの場合も、dSPNとiSPNの協調的な興奮は全く見られなくなる。
7) SPNの動態でパーキンソン病をモニターしたとき、治療効果が最も高いのはL-Dopaで、2種類あるドーパミン受容体の刺激剤はともにdSPNの活動を抑える。
などだ。

基本的にはこれまで言われていたように、dSPNとiSPNが拮抗的に働くという図式は同じだが、運動前に両方が限られた領域で協調するという現象を見出し、これがパーキンソン、ディスキネシアの両方の状態で分離してしまうことがこの研究のハイライトだろう。これにより、様々な症状をある程度説明できるようになる気がする。いずれにせよ、単純な興奮だけでなく、興奮のクラスタリングをモニターする方法は確立した。是非、ディスキネジア状態から改善するための薬理学に役立ててほしいと思う。

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