これまでの研究で、カロリー制限の他に、空腹を繰り返すことによりインシュリン分泌能が上昇することが糖尿病予備群を治療するカギになると考えられてきた。しかし空腹の効果を調べようとすると、体重も低下し、脂肪細胞由来のインシュリン抵抗性も改善するので、何が直接効果で、何が間接効果かよくわからなかった。
今日紹介する米国ペニントン生物医学研究所からの論文は、食事を厳重に管理することで体重を維持する条件で、空腹を繰り返す影響を見た研究で6月5日発行予定のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「Early time restricted feeding improves insulin sensitivity, blood pressure, and oxidative stress even without weight loss in men with prediabetes(糖尿病予備群の男性が早い時間から食べるのを制限すると、体重の減少なしにインシュリン感受性、血圧、そして酸化ストレスが改善する)」だ。
研究では12人のHbA1cが上昇し、ブドウ糖を下げる力が低下しているいわゆる糖尿病予備群のボランティアを集め、完全に管理された食事を1日3回食べさせ、5週間での様々な指標の改善程度を調べている。食事のメニューだが、鶏肉と野菜が中心の食事だが、朝昼晩としっかりとした食事で、実際に5週間で参加者の体重はほとんど変化はない。
この研究の目的は、夕食から朝食までの空腹時間を長くすることの体への影響を明らかにすることだ。そのために、コントロール群は朝7時、昼12時、夜6−7時という一般的食事間隔で過ごさせる一方(12時間空腹)、early time restricted feeding (早い時間から食事を制限する:eTRF)群では、朝7時、昼10時、晩御飯を昼の12時から2時までという極めて変則的な食事時間を守らせ、夕食から朝食まで18時間は空腹が続くようにして過ごさせている。
さて結果だが、面白い。まず体重だが両グループで1Kgほど下がるが、摂取カロリーは同じなため、大きな違いはない。これを厳密に実現するため、食事を残さず食べているかすら監視している。すなわち、体重の減少を除外して、空腹時間の影響に絞って調べることができる。
詳細を省いて5週目に調べた検査結果をまとめると、次のようになる。
1) 空腹時血糖には大きな差はない。
2) しかし、eTRF群では空腹時およびブドウ糖摂取後のインシュリンが50%程度低下している。すなわち、少ない量のインシュリンで血糖が維持できている。また、この変化は通常の生活に戻って7週間経っても維持できている。
3) この結果は、ベータ細胞の反応性が上昇していることと、体のインシュリン感受性が高まることによっている。
4) 不思議なことに、eTRF群では血圧が10mmHgも低下する (おそらくインシュリンレベルが低下したことだと推察している)
5) 血中のアイソプロスタン量から酸化ストレスが低下しているが、インシュリン抵抗性の指標になる炎症マーカーに変化はない。
6) あまり空腹を感じなくなる。
以上が結果で、体重が増え脂肪細胞由来の炎症には変化はないが、空腹によりインシュリンによる糖代謝制御システム全体がリプログラムされ、インシュリンをじゃぶじゃぶ出して疲れていた体が、元に戻るという結果だ。さらに言い換えると、動物の体は本来空腹が続くことを前提に作られているのに、規則正しい生活という名目で、空腹時間がほとんどなくなった現代人は、インシュリンを中心とする糖制御システムが完全に変化し、本来の姿からズレが生じていることになる。従って、動物時代に戻れという話になる。
なるほどと納得するし、人間だって規則正しい食事が取れるようになったのはついこの前のことだろう。とはいえ、今回の研究のプロトコルは、現代社会に暮らしながら実行するのは難しい。もし朝を抜いて、夜7時ぐらいから昼1時ぐらいまで18時間空腹でいても同じ効果があるなら、私のような酒好きの人間でもやってみる可能性はある。いくら酒好きでも、昼間仕事中に飲むわけにはいかない。次は是非現実的なプロトコルで実験してほしいと思った。