今日紹介するスタンフォード大学の研究はこれを実現するための一つの可能性を示した、将来を見据えた研究でNature オンライン版に掲載された。タイトルは「An exclusive metabokic niche enables strain engraftment in the gut microbiota (腸内細菌叢での特定の系統の移植を可能にする排他的代謝ニッチ)」だ。
研究のアイデアは極めててシンプルで、極めて特殊なポリサッカライドを利用できる細菌が含まれる細菌叢を持つ個体に、そのポリサッカライドを摂取させることで導入した細菌の増殖を人為的に操作できるかどうか研究している。この時、どのポリサッカライドを用いるかがカギになるが、この研究ではモデルとして、米国ではほとんど食されることのない、海苔に含まれるポリサッカライド(プロフィラン)を選び、それを利用できる細菌(Bacteroides ovatusの一種 NB001)を、蛍光遺伝子で標識し、人間の腸内細菌叢とともにマウスに移植した時、蛍光細菌の量を操作できるか調べている。
期待通りNB001を含む細菌叢を移植した時、プロフィランをマウスに食べさせた時だけNB001が急速に増殖することがわかった。次に、プロフィランの有無で、特定の細菌の増殖のオン・オフをかけられること、さらにプロフィランの濃度を変化させると、NB001の腸内での数をある程度操作できることも示している。
海苔のプロフィランを用いるというアイデアを着想したことがこの研究の全てで、期待通りプロフィランで多様な細菌が含まれる細菌叢のなかで、極めて限られた種類のBacteriocidesの細胞数をほぼ自由に調節できることが明らかになった。さらに、すでに細菌叢が確立している動物に、後から菌を移植しても、増殖優位性を用いて菌の量を増やせることも明らかにしている。
そこで最後に、プロフィランにより増殖する性質を他の細菌にも導入できるか、NB001の遺伝子を導入する実験を行い、ポリサッカライドを利用するための遺伝子クラスターの中の21種類の遺伝子を同時に導入することで、増殖を操作する細菌へ転換できることを示している。
主な結果は以上で、見方によれば餌があればそれを利用できる細菌が増えるという、至極当たり前の結果が示されただけだと言える。ただ、このプロフィランの利用に関わる遺伝子を特定し、同じ性質を他のバクテリアに伝達できることが示されると、この研究の意味は大きく変化する。すなわちこの研究は、何か有用な菌が見つかった時、その菌にこの遺伝子群を導入してその菌を細菌叢内での量をコントロールすることを可能にする。現在腸内細菌叢を整えるとして宣伝されている乳酸菌でもビフィズス菌でも、どの程度腸内に定着しているのかはっきりしないことが多い。しかし、この論文のような比較的安全な増殖コントロール法が開発されると、菌と餌の両方入った食品などが開発できるかもしれない。 しかし、海苔を使うというアイデアには恐れ入ったが、海苔を食べ慣れている日本人には使えるのだろうか。
「米国ではほとんど食されることのない、海苔」ですが、最近はそうでもないように思います。Trader Joe’sという全国チェーンの人気グロサリーでも沢山販売されていて、ボストンですが、ラボのアメリカ人などが日常的に食したり、あちこちで見かけます。韓国系の食がかなり広がっている影響なのでしょうか。
カリフォルニアロールは、海苔が見えないように隠すというのがポイントだったようですが、最近はどうもそうでもないようです。カリフォルニアですと、やはり海苔の存在感というのは大きいのではないか、と感じ、この論文もそういうところがポイントかもしれません。
いずれにしても、研究チームのある環境や研究チームのメンバー構成などで、違ったことを思いつく可能性ということで、ラボやコミュニティの多様性の大切さをなんとなく感じるお話でした。
わが国でも、もはやアメリカと同じぐらいの消費量かもしれませんね。ありがとうございます。