AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 6月9日:紫外線に当たると記憶力が上がる?(=風が吹けば桶屋が儲かる?)(6月14日号Cell掲載論文)

6月9日:紫外線に当たると記憶力が上がる?(=風が吹けば桶屋が儲かる?)(6月14日号Cell掲載論文)

2018年6月9日
SNSシェア
私もそうだったが、論文を書くときなんとか一つのシナリオに仕上げようという気持ちになると思う。ただ、無理にこの気持ちを追求しすぎると、誰が見ても、データとシナリオのこじつけが強い論文が出来てしまう。わかりやすくいうと、風が吹けば桶屋が儲かるという話になる。

今日紹介する中国合肥にあるNational Laboratory for Physical Sciences at the Microscaleというこれも訳すのが難しい名前の研究所からの論文を読んだときも、シナリオに向かって一直線という印象を強く持った。一方、中国の研究のレベルの高さについてもよくわかる論文だった。6月14日号のCellに掲載され、タイトルは「Moderate UV exposure enhances learning and memory by promoting a novel glutamate biosynthetic pathway in the brain(適度な紫外線照射は脳の新しいグルタミン酸合成経路を促進して学習と記憶を高める)」だ。

まず「紫外線照射が学習と記憶を高める」というタイトルを見れば誰でも驚いてしまう。「なになに」と読み始めると、このグループは記憶の研究より、パッチクランプで活動を記録した一個の神経細胞内成分を質量分析する大掛かりな研究を進めていることがわかる。ただ、いくら高い感度になったとはいえ、一個の細胞の成分分析はまだまだハードルが高いと想像する。その中で、このグループはこれまで脳内で検出されたことがないウロカニン酸(UCA)が海馬の神経細胞で高いレベルで検出できることに注目した。

UCAはヒスチジンから合成されるアミノ酸代謝物で、なんと1967年前に紫外線照射により合成が上がることが知られていた。そこで、脳内のUCAと紫外線照射の関連を調べ、UCAが脳内で合成されるのではなく、紫外線照射を受けた皮膚で合成され、これが脳内に脳血管関門を超えて入ってくることを示している。これも炭素13をラベルした詳しい実験で、代謝研究がきちっと行われているのがわかる。

前半の話はここまでで、次は脳細胞に入ったUCAの運命を調べ、肝臓と同じで、UCAが脳細胞の中でも中間体を経てグルタミン酸へと代謝されることを示している。はっきり言って、グルタミン酸というゴールがあって、これを得意の単一細胞の質量分析や、代謝研究で確認している。結果、UV照射を受けると、海馬のグルタミン酸合成が高まるという話が成立する。

ここまでくると、グルタミン酸が増えて、海馬のシナプス活性が高まり、記憶が良くなるというシナリオが見えてくる。これを光遺伝学的にCA3ニューロンを刺激し、CA1ニューロンでの興奮が上がるかという系で確かめ、UV照射で海馬のシナプス伝達性が高まることを確認している。

そして最後のゴールとして、2種類の記憶テストを行い、紫外線照射によりいずれのテストも結果が高まることを示している。まさに紫外線に当たると記憶力が高まる、風が吹けば桶屋が儲かるという話を読んだ気になる論文だ。なんとなく、本当かなと思ってしまうが、もしレフリーでまわってきたら、結局はアクセプトせざるを得ないしっかりした仕事だと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。