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6月12日:肺の内分泌システムが喘息を悪化させる(6月8日号Science掲載論文)

2018年6月12日
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喘息の一義的な原因はもちろんアレルゲンに対する免疫反応で、マクロファージなどの抗原提示細胞、 Th2型のT 細胞、B細胞などの相互作用を通して起こるIgE産生、そしてこTh2細胞から分泌されるIL5を介して起こる好酸球の遊走などが病態の主役だと考えられている。ただ、雷によりその時だけ誘発される喘息が報告されるように、免疫系だけでは説明のつかない喘息も多く、神経系や間質細胞などが喘息の様々なステージに関わると考えられている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、肺上皮細胞の中に少数含まれている、様々なホルモンを分泌する神経内分泌細胞が喘息を悪化させている事を示した研究で6月8日号のScienceに掲載された。タイトルは「Pulmonary neuroendocrine cells amplify allergic asthma response(肺内に存在する神経内分泌細胞はアレルギー性喘息反応を増幅する)だ。

おそらくこの研究は肺の神経内分泌細胞(PNEC)の機能を調べることが主目的だったと思う。事実、PNECの機能についてはよくわかっていないことが多かった。そこで、PNEC分化に必要なAscl1分子を肺の臓器形成特異的にノックアウトし、PNECの存在しないマウスを作る事を試み、成功した。これまでPNECは出産時息をして肺を膨らませる過程に必要と考えられており、著者らも出生時に様々な異常が見られると期待したと思うが、PNECが欠損してもマウスは正常に生まれ、組織学的にもほとんど正常マウスと違いが見られなかった。

様々な実験系で何か異常が出ないか調べたのだと想像するが、最終的に見つかったのが、アレルゲンに対する喘息を誘発したとき、普通なら粘液を分泌するゴブレット細胞が増殖するのに、PNECが欠損するとこの反応が強く抑えられることを見出した。なんとか違いを見つけることができれば、あとは喘息のどの段階でPNECが働いているのか、粛々と調べていけばいい。

この研究ではもっぱら感作が成立し、喘息発作が起こるときの肺の組織変化に注目して研究が進められている。結果、喘息時に見られるTh2細胞の浸潤、それによるIL5分泌、そしてそれに誘導される好酸球の浸潤の全てが抑えられていることを発見する。これらはTh2による2型の免疫反応と呼ばれており、上皮由来のIL25,33, TSLPが関わるとされてきたが、PNEC欠損でもこれらの分泌には異常なく、この2型免疫反応の低下は、PNEC由来のペプチドやGABAの低下によると考えざるを得ない。そこで、PNECと2型免疫反応の接点を探した結果、ILC2と呼ばれる自然免疫に関わるリンパ球がPNECの近くに存在し、CGRPを介して刺激され、IL33やIL5の分泌を誘導することを明らかにしている。次にPNECのGABA産生を特異的にノックアウトする実験を行い、GABAは主にゴブレット細胞の増殖に関わることを示している。逆に、PNEC欠損マウスでも、GABAとCGRPを気管内に投与すると、Th2型の反応が正常に戻ることも示している。

最後に喘息患者さんの組織を調べて、喘息ではCGRPを分泌するタイプのPNECの数が増加していることを示し、マウスで見られた現象はヒトでも起こっていると結論している。色々苦労して、喘息が免疫系の細胞だけでなく、肺に存在する多数の細胞が関与する病気であることを示した研究で、今後の病態解析や治療法開発に重要な発見だと思う。ステロイドとβ2ブロッカー合剤スプレーのおかげで、喘息のコントロールは、私が医者をしていた頃と比べると格段に向上している。しかし、いまだにステロイドホルモンが何をしているのか完全に説明できていないことを考えると、この研究は新しい方向性に繋がるのではと期待している。

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