この鎌形赤血球の特異な形状は突然変異したヘモグロビンが重合することにより起こるが、その結果鎌状赤血球ではNAD/NADHの酸化還元バランスが低下している。このバランスは、NAD合成の原料となるグルタミンを投与することで正常化することが指摘され、これまで治験が行われてきた。
このようにわかったように書いてきたが、全てこの論文を紹介するためのにわか勉強で、私自身は鎌形赤血球症ついてはほとんど知らず、ましてやそれをグルタミンで治療できることなど想像もしなかった。そんな私にとって、グルタミンが治療薬として治験されているというこの論文のタイトルは驚きで、それだけで選ぶことになった。
今日紹介するUCLAからの論文はグルタミンを投与して鎌形赤血球の最大の症状激痛発作が抑えられるかを調べた第3相試験で7月19日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「A Phase 3 Trial of l-Glutamine in Sickle Cell Disease(鎌形赤血球症のl-グルタミンによる治療の第3相試験)」だ。
もちろんグルタミンは根本治療ではなく対症療法で、要するに、鎌形赤血球により起こる血管の閉塞による激痛発作を治す試みで、これまで一般治療として行われているhydroxyureaとの併用を前提に行われた、2重盲検無作為化試験で、激痛の発作を減らすことができるかを評価ポイントとして行われている。230人の患者さんが2群に分けられ、48週間、2日に一回0.3g/kgのグルタミンを服用して、その間の激痛発作の数を調べている。
さて結果だが、48週間で激痛発作回数が平均で3.9回から3.2回に減る。また、痛みにより入院する回数は3回から2.3回に減る。さらに、治療を始めてから最初の激痛発作が起こるまでの日数は、偽薬の場合54日だったのが、グルタミン投与では84日に伸びる。これらの結果から、グルタミン治療は有効と判断している。しかし、50Kgの人で2日で15gもグルタミンを摂取して大丈夫なのかが気になる。確かに、倦怠感、四肢痛、背中の痛みなど明らかにグルタミンで高い副作用はあるが、耐えられる範囲だとしている。
話はこれだけで、確かに統計学的有意差が出ているが、素人には実際の診療上意味があるのか気になるところだ。とはいえ、安いグルタミンで痛みが少しでも抑えられる事はアフリカなどでは重要な結果だと思う。そして何よりも、グルタミンが治療薬として使えることを発見できたことに感心した。