この厳格な食事療法の効果があった人と、反応しなかった人の違いを知ることは糖尿病の標準治療を開発するためにも重要で、これまでも解析が続けられているが、今日紹介する英国ニューカッスル大学からの論文は、トレーナーもついて厳格な食事療法を行うコホート研究の中から、治療に反応した人と、反応しなかった人を選んで、その差をどこでも行える検査から見つけようとしている、まさに一般臨床に即した研究でCell Metabolismにオンライン先行掲載された。タイトルは「Remission of Human Type 2 Diabetes Requires Decrease in Liver and Pancreas Fat Content but Is Dependent upon Capacity for b Cell Recovery(人間の2型糖尿病の寛解には肝臓と膵臓の脂肪量が減少する必要があるが、これもβ細胞の回復力にかかっている)」だ。
タイトルにつられて読み進むと、食事療法で対処できる人と出来ない人を見つけ出すためのしっかりとしたコホート研究が行われている以外は、なんの変哲もない研究と言っていい。まず、参加者の全ては100kg近い肥満で、空腹時血糖やHbA1cも高く、糖尿病として薬剤の治療を受けていた人たちだ。この人たちに糖尿病薬の投与をやめるとともに、1日825-853kcal/dという厳しい食事制限を3−5ヶ月課し、プログラム終了後も食事療法のサポートを続け1年後に効果判定を行っている。
これほど厳しい食事制限が行われると、すべての人が10kg以上の減量に成功する(平均で15%の改善はすごい)。ところが驚くことに、空腹時血糖やHbA1cを見ると、同じように体重が減っているのに効果が見られる人と見られない人ではっきりと分かれる。実際には、結果がわかってから解析が行われたのがこの論文なので、この結果をもとに、効果のある人と、ない人が分けられている。
この差をさらに追求するため、最近注目されている肝臓の脂肪量を調べてみると、減量により同じように低下する。また脂肪代謝もほぼ同じように改善する。ただ、効果が見られなかった人たちは体重が増え出すと、脂肪代謝のマーカーが上がりだす。それでも、最初よりは随分低い値を保つことができている。
一方、何よりはっきりしたのが、インシュリン分泌能力で、効果のあった人はインシュリン分泌能がはっきりと改善するのに、効果の無かった人はどんなに体重が正常化し、肝臓脂肪も低下しても、インシュリン分泌能が元に戻らない。これらの結果から、糖尿病を薬剤なしでコントロールするためには、β細胞が疲弊して、インシュリン分泌能が不可逆的に失われるより前に、食事療法を始める必要があるという結論になる。
はっきり言って結論にはなんの驚きもないが、皆が当たり前と思っていることをしっかりと実験的に示している点は評価できる。対策としては、糖尿病とわかったらなるべく早く、すい臓β細胞が疲れる前にまずしっかり食事療法を受けて見るべきということになるが、やはり800Kcalというのは高い壁だと思ってしまう。
最後に強調したいのは、インシュリン分泌能が非可逆的に低下してしまったら、もうダイエットの意味がないということは決してない点だ。この結果は、糖尿病についてだけの話で、肥満が万病の原因になっている事は間違いない。