今日紹介するシンガポールAーStarからの論文は、遺伝子の配列に加えて、構造や実際の機能を組み合わせることで古細菌の持つプロフィリンの機能と進化に迫れる可能性 を示した研究でNatureオンライン版に掲載された、。タイトルは「Genomes of Asgard archaea encode profilins that regulate actin (Asgard系統の古細菌のゲノムに存在するプロフィリンは実際にアクチンを制御している)」だ。
おそらくこのグループの究極の狙いは古細菌のアクチンの機能と動態を調べることだろうと思うが、残念ながらまだ機能的なタンパク質を合成することができない。一方プロフィリンの方は、相同性は低いが古細菌の分子を合成することができる。そこで、まずプロフィリン構造と機能を調べてみようとこの研究に至ったのだと思う。
DNA配列での相同性は極めて低いが、Asgard(北欧の神々の住む領域)古細菌のプロフィリンの結晶構造を調べると、真核生物と結構似ており、アクチンの結合機能にふさわしい構造をしている。また、構造的に重要な領域をベースにしたアミノ酸配列の比較から、古細菌のプロフィリンは、独自のグループに分類できることがわかる。 となると、古細菌のプロフィリンが本当にアクチン重合に関わるか調べる必要がある。ただ、古細菌のアクチンタンパク質が使えないので、ウサギのアクチンに古細菌のプロフィリンを加える実験を行い、真核生物のプロフィリンと比べて100倍近くの濃度が必要だが、ウサギのアクチン重合を誘導できることを示している。また、同じAsgard系統の古細菌のプロフィリンの間でも、活性に大きな開きがあることも分かった。さらに、ウサギアクチンと古細菌ポルフィリンの結合タンパク質を結晶化し、構造を調べている。面白いことに、正常温度で生存しているOdinのプロフィリンとウサギアクチンが結合した複合体は、哺乳動物同士の組み合わせの構造に最も近く、古細菌の中でも生息温度に合わせて様々な変化が起こっていることがわかる。
もちろん似た点だけではなく、はっきりと違っている点もわかる。特に古細菌のアクチンには、真核生物アクチンが集まる際に利用されるプロリンに富む領域が存在しない。これに対応して、古細菌プロフィリンはウサギアクチンのプロリンに富む領域とは結合しないこともわかった。 最後に、真核生物の膜でアクチンの調節に関わる脂質PIP2と古細菌プロフィリンとの相互作用を調べ、反応は見られても極めて弱いことが示され、古細菌でのアクチン重合調節にも脂質は関わっているかもしれないが、哺乳動物とはかなり様相が異なるだろうと結論している。
話はこれだけで、要するにプロフィリンは真核生物と同じ作用を持っているようなので、おそらく古細菌アクチンも同じように使われてそうだというロジックの論文だ。全てを合成できないというもどかしさの中で、なんとか機能を明らかにしたいという気持ちはわかるが、結局は古細菌のアクチンを合成できないと、本当の解決はないだろう。