今日紹介する英国クイーンメリー大学からの論文は、この連想が飛びすぎないように抑えているのが側頭葉のα波の活動で代表される脳活動であることを証明しようとした研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Right temporal alpha oscillations as a neural mechanism for inhibiting obvious associations(右側頭葉のα振動は当たり前の連想を抑制する神経的メカニズムだ)」。
結論はすでにタイトルに書いてあるので、そうかで終わってもいいのだが、科学者からみると、これをどう証明するかが一番重要だ。当然、人間を使ってしかできない研究で、まずボランティアに連想してもらうことになるが、勝手に連想させたのでは研究にならない。
この研究ではMednick遠隔連想テストが用いられる。この論文で挙げられている例を示すと、walker/main/sweeperに共通に連想される単語としてstreet, すなわちstreetwalker, main street, street sweeperを思い出させる課題を繰り返させる。この時例えばear/tone/fingerの中から2つの単語を選んで、それにフィットする単語を選べという課題の場合、ringすなわちearing, ringfinger以外には無いようなのだが(確かめたわけではない)、この時earとtoneはもともと内容が近い単語なので、そちらに気が取られて正解が出にくい。すなわち、当たり前のear とtoneの連想を抑制する必要があり、この時の側頭葉の役割を調べることで、連想の自由さを阻むメカニズムがわかるというわけだ。実験としては、引っ掛けていない連想と、普通のつながりを抑制する必要のある引っ掛けのある連想を行なっている時の、脳活動を調べ、あるいは操作して連想テストの正解率を調べることになる。
前置きが長くなったが、この研究で一番驚いたのは、引っ掛けのある課題を解くとき、右側の側頭葉にα波の波長で脳波とは逆相の刺激を外からかけると、抑制が外れて、ひっかけ連想テストの正解率がグンと上昇する結果だ。これに相当して、ひっかけ問題では当然正解率が落ちており、その時には側頭葉のα派が高まっていることも確認している。
最後に、もう一度今度はひらめきをテストするalternative uses taskの結果に、側頭葉に流したα逆相電流の効果を調べ、側頭葉のα波を抑制した時に確かに閃きの程度が高まるという実験も行っている。
結果はタイトルで全て尽くされている研究だが、実際の実験は大変であることがわかってもらえればいいと思う。しかし、これが正しいとすると、何か創造的仕事に携わる時、側頭葉のα波を抑える電流を流してくれる、「閃きハット」の販売も近いような気がしてくる。