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12月29日 補体成分による自然免疫刺激とTau(12月19日号Neuron掲載論文)

2018年12月29日
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Tauとアルツハイマー病(AD)の最後は自然免疫の活性化によりTauの病理過程が促進させることを報告したヒューストンHuffington老化研究センターからの論文で12月19日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Complement C3aR Inactivation Attenuates Tau Pathology and Reverses an Immune Network Deregulated in Tauopathy Models and Alzheimer’s Disease (補体C3a受容体の不活性化によりTauの病理作用が軽減され、Tau異常症アルツハイマーモデルで異常になっていた免疫ネットワークを元に戻す)」だ。

この研究では、自然免疫刺激因子としてのC3とTau異常症の関係に最初から焦点を当てて研究を進めている。まずAD患者さんの症状と脳内でのC3、C3aRの発現を調べ、痴呆を示すADをはじめとする編成性疾患で、両方の発現が高まっていることを確認する。

その上で、今度はマウスのTau異常症へと舞台を移し、C3とその受容体がTau異常症でも上昇していることを確認する。そして、この変化にC3とその受容体シグナルが関わるかどうか、受容体遺伝子ノックアウトマウスを用いて調べ、 Tau異常症での脳内の炎症が、C3a受容体シグナルにより誘導されていることを明らかにする。

そして受容体ノックアウトにより炎症が収まることで、Tauの異常発現により起る病理学的、神経学的な異常が改善し、シナプスが回復し、神経細胞の変性を止めることができることを明らかにしている。

その上でC3により誘導される炎症の細胞学的、分子生物学的過程を解析し、この炎症反応が、C3を発現するアストロサイトと、その受容体を発現するミクログリアを主役として起こる過程で、この炎症によりTauの異常沈着が促進されると結論している。そして、C3受容体の下流シグナルとしてSTAT3を特定している。最後にマウスモデルでSTAT3の作用を阻害することで、Tau異常症を抑えられることも示している。

以上が結果で、もともとADの背景には自然免疫による炎症があると考える、比較的ポピュラーな考え方に基づく研究だが、これがTauタンパク質の沈殿などの異常に特異的に働いていると考える点と、この自然免疫の主役がC3とその受容体であるという点が新しいようだ。ただ、最初の現象論を除いて、すべての実験がマウスで行われており、実際にもっと長い期間をかけて起こってくる人間のADにどこまで当てはまるのかはわからない。

3日にわたってTauの異常発現がADの主役と考える論文を3編紹介した。重要なのは、アミロイドにせよ、Tauにせよ、私たちがADの成り立ちについて理解できていない点で、まだまだ様々な方向からこの病気にチャレンジできる可能性がある点だ。昨日、今日と紹介した2編の論文では、炎症抑制、およびシャペロン抑制など新しい治療標的についても示されているが、新しい発想で眺めることで、治療のための何らかの糸口が示されていたが、新しい標的も続々見つかる。

昨日紹介した論文から分かるように、80歳を越すと脳の病理組織学的にはADと診断できる人の方が多くなってくる。すなわち、ADが高齢化社会の最大の課題になっている点だ。にも関わらず、これまで多くのAD治療薬が最終段階で引き返されてきた。ただ、諦める必要はない。12月14日号のScienceには、アミロイド仮説に基づく薬剤にしても、現在のように症状が出てからその効果を試す治験にこだわらず、また様ざまなバイオマーカーを組み合わせて新たにチャレンジする可能性は十分あることを強調していた。

さらに、今回紹介したように新しい標的を探すことも重要だ。これについては1月8日に発行のNeurologyにアルツハイマー病創薬財団から、現在治験が進行中の薬剤についてのまとめが出ていた。これによると、1)炎症を標的とする薬剤12種類(2種類は第3相)、2)ミトコンドリアや代謝異常を標的にした薬剤が14種類(3種類は第3相)、3)血管障害を標的にする薬剤が11種類(2種類は第3相)、4)神経細胞の保護を標的にした薬剤および細胞移植19種類(2種類が間質細胞移植、第3相はなし)、5)そして例えばうまくいかなかったBACE阻害剤と抗アミロイド抗体と組み合わせた治療などの併用療法が11種類(第3相4種類)と、多くの治験が現在進行中で、多くの研究機関、創薬企業、そしてベンチャー企業が粘り強くAD治療に挑戦している。多くの患者さんも、諦めることなく、朗報を待って欲しいと思う。

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