今年もがん免疫は、トップジャーナルの中のかなりのシェアを占めるようになるのではないだろうか。注目するというより、否応無しに目に飛び込んでくる。ただ、チェックポイントの話で終始する我が国のメディアからは決した触れることができないほど、多様な論文が発表され、この分野の力を感じさせる。この中には、現在のトレンドから見ると古い素朴な研究で、あまりトレンディーに見えないがそこが新鮮な論文もある。そんな例が今日紹介するオーストラリアのメルボルン大学からNatureに発表された皮内でのがん免疫反応を調べた研究だ。タイトルは「Tissue-resident memory CD8 + T cells promote melanoma–immune equilibrium in skin(組織内に常在するCD8陽性T細胞がメラノーマとの皮内でのメラノーマとの並行関係を強める)」だ。
次に、この免疫反応に関わるT 細胞について検討し、組織内に常在するメモリーキラーT細胞が誘導され、顔の周りに集まっていることを明らかにする。そして皮内を観察できるビデオを用いて、この細胞が皮内を動き回ってガンの存在をサーベイし、ガンを抑えていることを発見する。
この研究のきっかけは極めて素朴だ。メラノーマは皮内で発生し増殖するので、ガンを移植するとき注射しやすい皮下組織ではなく、皮膚の層の中に皮内注射してみたらどうだろうと着想し、皮内注射された場合はガンに対して強い免疫が誘導され、がんの増殖が抑えられることを発見する。しかも、メラノーマは完全に除去されるのではなく、増殖しないまま、5ヶ月以上皮内に止まっていることが明らかになった。
最後に、この細胞だけが癌をサーベイし、がんの発生を抑えてくれる細胞か確かめるため、少し凝った実験系を用いている。まず、ウイルス抗原で免疫し、同じウイルス抗原を持ったガンを移植して前以て誘導したT細胞の効果を調べる実験系で、全身を循環しているキラーT細胞を抗体で除去し、組織に常在するT細胞だけでガンに対する免疫反応が起こるか調べ、全身を循環するT細胞がなくても組織に常在するT細胞があればガンの増殖を抑制できることを示している。加えて、この反応にTnfαやインターフェロンが関わることも示しているが、データ自体は完全でないように思った。
以上、そのメカニズムはともかく、皮内に抗原特異的記憶細胞が存在し、それが皮膚の中をサーベイして、キラー活性を含むさまざまなメカニズムでガンを殺しているが、ガン自体も完全に除去されるわけではなく、増殖はしないがじっと皮内で免疫の低下を待っているといったシナリオを提案し、ガンの局所についてもっと調べる必要があることを示唆した論文だと思う。
ちょっとタイムスリップしたのではと思うほど、結構クラシカルなガン免疫研究で、基本的には、ガン細胞を皮内に移植したという素朴さがこの研究の最大の売りではないかと思う。このように、ガン免疫研究は極めて多様になり、活性化している。これからも、さまざまな領域の研究を紹介したい。