朝日新聞は元の記事のペーストを許していない。元の記事は以下のURLを参照。 http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307140300.html
京都大学、神戸先端医療財団と長年にわたって一緒に仕事をすることになった、前京大総長の井村先生は、ことあるたびに、New England Journal of MedicineやLancetなどの伝統ある臨床雑誌での日本シェアが低下していることを嘆いておられた。その意味で、辻さんを中心に、ほぼ全国の医師が協力してNEJMに論文を出したことは正直嬉しい。しかも、日本で遅れていると心配していた次世代シークエンサーを駆使した臨床研究である点も意義深い。実際には大変な仕事だ。Multiple system atrophy という神経難病の患者さんから、遺伝性が疑われる家族を見つけ出し、そのメンバーの全ゲノムを次世代シークエンサーで読み比べることで、最終的に2家族の患者さんだけに突然変異が見られる遺伝子を見つけた。この遺伝子は一般に知られているコエンザイムQ2で、患者さんは両方の染色体のこの遺伝子に変異を持っていた。重要なのは家族性があると言っても、多くの遺伝子が関わる多因子遺伝病であるため、解析は大変だったと思う。次に、このチームは家族性が見られない患者さんについてこの遺伝子を調べた。すると、極めて低い確率ではあるが、同じ変異が両方の染色体に持つ患者さんが見付かった。さらに、その患者さんからの細胞についてこの酵素の活性を調べると、活性が低下していた。これが論文の全容だ。重要な点は、頻度が少なくとも遺伝子診断を行ってこの変異が見付かれば、この酵素を補充して治療する可能性がある点だ。また、この病気の発症メカニズムの一端が明らかになったことも大きい。この点をNEJMも評価したのだと思う。 さて、記事であるが、あまりまじめな記事とは思えない。URLでは朝日でも記名記事でない場合があるのかと驚いた。もちろん記載されていることの多くは間違っていない。しかし、臨床の論文としての質の高さ、辻先生の下に何十人もの医師が協力することでこの仕事が達成できたことなどは是非伝えてほしかった。特に、記事自体で問題だと思ったのは、外国の患者さんについて述べた部分で、この記事だと日本以外にも同じ遺伝子の変異があるように受け取られる。しかし実際の論文では、明確にこの変異が日本人特有であることが示されている。他にも、病気を扱うときはどのぐらいの患者さんに当てはまるかもしっかりと伝えてほしい(実際には363例中4例)。 他紙は報告しなかった中で、朝日が報告したのは褒めていいが、記事はいただけない。