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2月11日: PU1は線維芽細胞活性化を誘導するマスター分子(1月30日Natureオンライン掲載論文)

2019年2月11日
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PU1と言われても、血液細胞分化の知識がないと、どんな分子なのほとんど聞いた事もないのではと思う。幸い私自身は血液細胞分化に関わっていたため、PU1がマクロファージやB細胞の分化決定に大事な分子であることを知っているし、またこの分子を研究している何人かの人とも付き合いがあった。しかし現役時代を含めて今まで、この分子が線維芽細胞の活性化に深く関わっているなど想像だにしなかった。

今日紹介するドイツ・エアランゲン大学からの論文は、PU1の線維芽細胞での機能を明らかにし、PU1=血液学と思っていた血液学者をアッと言わせた論文で1月30日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「PU.1 controls fibroblast polarization and tissue fibrosis (PU1は線維芽細胞の分極化と組織の繊維化を調節する)」だ。

この研究ではまず皮膚バイオプシー標本の遺伝子発現に関するデータベースを調べ、組織の線維化が進行している線維芽細胞が特異的に発現している転写因子を探索し、PU1が最も発現の上昇しているという意外な事実を発見する。そして、様々な線維化が進行している疾患の組織を調べ、確かに線維化の進行とPU1の発現が一致していることを発見している。

次に、PU1を線維芽細胞でノックアウトすると線維化が起こらないことをヒトの細胞および、マウスの個体レベルで確認し、確かにPU1が線維化を決める重要な分子であることを証明している。また、過剰発現させた細胞を用いて、関節膜上の線維化モデルで調べると、炎症性の線維芽細胞にスウィッチを入れて線維化を誘導することができる。

線維化は炎症の後起こることがわかっているが、炎症を誘導するサイトカインはPU1の維持には関わっても、新しく誘導することはできない。これは、PU1遺伝子が転写抑制型のヒストン(H3Kme3,H3K27me3)と結合しており、これを外すと分化が誘導される。ただ、この分化を誘導する因子については特定できていない。一方、炎症サイトカインによってPU1の発現が維持する仕組みについては、PU1のRNAを分解するマイクロRNAの一つmiR-155が抑制される結果であることを示している。

転写因子の機能を阻害する化合物を見つけることは通常難しいのだが、幸いPU1に関しては比較的特異的に機能を抑える化合物が存在し、この研究ではこのDB1076を用いて、細胞レベル、および個体レベルで線維化を抑制する事を証明し、線維化を防ぐ新しい分子標的として使えることを示している。

結果は以上で、PU1がマクロファージの分化に必須の分子である以上、副作用も考えながら臨床試験を行っていく必要があるだろう。この論文ではPU1とネットワークを形成している他の転写因子についても述べており、医学にとって最も難しかった線維化の抑制もそろそろ視野に入ってきたことがよくわかった。

  1. Okazaki Yoshihisa より:

    まず皮膚バイオプシー標本の遺伝子発現に関するデータベースを調べ、組織の線維化が進行している線維芽細胞が特異的に発現している転写因子を探索し、PU1が最も発現の上昇しているという意外な事実を発見。

    →気のせいかもしれませんが、研究の最初のとっかりに、情報解析を使ってる論文がけっこうあるような印象をうけます。

    データ駆動型研究でしょうか。

    PU1が線維芽細胞の活性化に深く関わっているなど想像だにしなかった。隠れた関連の可能性を示唆できる。

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