確認したわけではないが、現在わが国で保険収載されている抗PD1抗体はおそらく2種類で、一つは小野薬品のオプジーボと、もう一つはメルク社のキイトルーダだと思う。両者がどのように選択されているのかよく知らないが、承認を受けるための治験での対象をうまく選ぶことで、差別化を図ろうとしている。例えば、マイクロサテライト不安定性の固形癌を選んで治験効果を示せたキイトルーダは、ゲノムの不安定性さえはっきりさせれば全ての癌に使える。ただ、いずれの場合も、メラノーマを除くと、他の治療がうまくいかない患者さんのみに使用が認められている。従って、化学療法や標的治療の前に使うことができるかどうかは、さらに使用を拡大させるためには重要になる。
例えば先日紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9787)グリオブラストーマの手術前に抗PD-1抗体を使う方法は、治療を続ける判断を組織学的に検証できるので認可されていくのではと感じる。もちろん、未治療の患者さんで従来の化学療法と比較する治験も盛んに行われている。ただ、ステージIVの非小細胞性の肺がんについて行われたCheckmate国際治験では一般化学療法に対してほとんど優位性は認められなかったことが報告された(The New England Journal of Medicine 376:25, 2017)。この場合でも突然変異が多い肺がんでは明らかにオプジーボが優位性を示しており、患者さんを選ぶことが重要であることが示された。
驚いたことにオプジーボの代わりにキイトルーダを用いる以外はほとんど同じプロトコルの国際治験がThe Lancetに発表され、今度はチェックポイント治療に優位性が示されて驚いたので紹介する。タイトルは「Pembrolizumab versus chemotherapy for previously untreated, PD-L1-expressing, locally advanced or metastatic non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-042): a randomised, open-label, controlled, phase 3 trial (未治療進行性非小細胞性肺癌に対するキイトルーダと化学療法の比較:無作為化、オープンラベル、第3相試験)」だ。
オプジーボに対する治験とこの治験の違いは、ガンでのPD-L1の発現をはっきりと層別化している点と、もともと標的治療がよく効くALK変異、EGF受容体変異を除去している点だろう。実際、PD-L1の発現が低いガンではキイトルーダと化学療法の差はほとんどなくなる。半分以上のガンでPD-L1が発現している場合、3年目の生存率で40%に近い。一方化学療法では20%以下だ。もちろん再発があるかどうかで見ると、成績のいい群でも3年再発のないケースは10%近くに低下するので、なかなか根治とはいかないこともわかる。
話はこれだけだが、ともにPD-1を標的にしており、しかも免疫グロブリンのクラスもIgG4と同じオプジーボとキイトルーダで、結果がこんなに違うと使う方も戸惑うのではないだろうか。実際、理由はほとんど理解できない。おそらく、治験のちょっとしたプロトコルの違いでこんな結果が出るのではないだろうか。
プレシジョンメディシンの時代、やはりこれまでの治験と認可のあり方を真剣に議論する時期が来たように感じる。
標的も同じ、化学構造も同じでも結果に違いが。。
→使い方もkey pointの1つということでしょうか?
先日、テセントリック(抗PD-L1抗体)で認められる抗腫瘍効果が、抗PD-1抗体薬と微妙に違うとの話をMRさんから教えて頂きました。PD-L1とPD-1の相互作用を阻害するなら、どっちをブロックしても同じだろうとか、愚かなイメージを持ってましたが。。。生体と薬の関係の奥深さに驚いた出来事でした。
PD-1阻害とPD-L1阻害が異なるのはいいのですが、個人的にはPD-1のIgG4抗体ならほとんど同じだと今も思っています。
確認しました。
抗PD-L1抗体はIgG1のようです。
抗PD-L1抗体は、PD-1のもう一つのリガンドである
PD-L2には結合しない
↓
PD-L2/PD-1経路に由来するTh2型免疫応答の抑制を維持できるらしい。
抗PD-L1抗体はPD-L1/B7-1経路も遮断できる。
↓
PD-L1/PD-1経路とPD-L1/B7-1経路の両経路に由来する抑制性シグナルを遮断でき、T 細胞の再活性化がより促進され強い抗腫瘍免疫応答の獲得が期待できるはず
こうした効果のことでした。免疫療法は、生物vs生物に介入する治療法だけあって複雑怪奇です。
PD-1はT細胞側であるため、こちらをブロックすると正常細胞にも攻撃する恐れがあります。
この手のもので、一番有益であると考えられている者は、がん細胞のPD-L1特異的な阻害剤です。
正常細胞のPD-L1には結合せず、がん細胞のみに結合する事でT細胞は正常細胞には攻撃することなく、がん細胞を攻撃する事になります。
また、抗腫瘍性を高めるという点では、免疫グロブリンIgG1抗体の方が自然免疫系の誘導するために優れています。(代わりに副作用が大きくなる事が考えられる)
しかしベネフィットとリスクを考える必要があるため、オプジーボやキートルーダはIgG1に落ち着いたと考えています。
この治験はオブジーボと、キートルーダを比べたものではなく、同じような治験をキートルーダでやった結果、前に出されていたオブジーボの結果と全く違っていたという話だと思います。
これとは別に、PD-L1抗体ですが、PD-L1が樹状細胞にも出て、免疫を調節しており、がん免疫に樹状細胞が関わっていることも明らかなので、単純な話にはならないように思います。
結局オプジーボ、キイトルーダ、テセントリク
肺がんにはどれを使えばいいのですか?
樹状細胞ワクチン療法も考慮してもいいのでしょうか?