I型糖尿病については、日本語、英語を問わず極めて優れたウェッブサイトがあり重要な情報が発信されている。実際、IDMMネットワークは患者さんの団体としては日本初の認定NPO資格を取り、活発な活動を行っておられる。私たちの出る幕ではない。代わりに、I型糖尿病の治療について今年発表された総説を読んで紹介する事にした。もとより、私はこの分野の専門ではない。しかし、医学をある程度理解できる人間として論文を読んだとき、どのような感想を持つのかを紹介する事も患者さんの役に立つと思った。従って、I型糖尿病については今後もこの様なスタイルで情報をアップデートできればと思う。更に多くの方に理解してもらうため、是非患者さん達とこれら総説の読書会を行って、少し突っ込んだ議論を行い、録画出来たらと考えている。
Juvenile Diabetesというキーワードで文献サーチを行うと、60000を超す論文がでてくる。オリジナルな論文を全部読むのは大変だ。次に総説と絞り込みを行うと、数は8000に減る。このうち今年2013年に出版された総説論文は32編だが、英語に限ると更に減って23編になる。ちなみに2013年に出版された若年性糖尿病に関わる論文総数は1000を超す。全てが1型糖尿病についての仕事かどうかは確かめていないが、しかし研究は活発である印象を持った。総説に戻ると、症例報告、診断関係、実地診療などが半分で、新しい治療についての総説は9編で、インシュリン療法、免疫関係、移植療法に分かれる。
まずインシュリン療法についてだが、最も新しい総説として、Diabetes, Obesity and Metabolism に掲載されたカナダのZinman博士の総説を読んだ。様々なインシュリン製剤や科学化合物の臨床治験が活発に行われているようだ。驚いた事に(専門外の私が)、長期効果を持たせたインシュリンの1型患者さんを用いた臨床試験も行われている。特にdegludecと呼ばれている極めて長期効果のあるインスリンはいい成績を上げているようだ。他にもモニタリングやポンプの方も改善が進んでおり、続々治験が行われている。この治療自体は病気を治すものではないが、生活の改善には間違いなくつながる。良いものは日本でもすぐ使える様、患者さんと医師、企業の協力体制を作っておく事が重要だろう。
次に移植については、Annals of Biomedical Engineeringに掲載されたHatsziavramidisらの総説と、Diabetesの8月号に掲載されたRickelsらの原著論文を読んだ。日本ではまだまだ敷居の高い膵島移植に代わる方法に関しては、iPS細胞から、膵臓幹細胞まで様々な可能性が研究されてはいるが、実用化にはまだまだ時間がかかるだろう。私も3月まではiPSなど幹細胞を用いた研究の現状について十分フォローしていたが、膵島移植が可能になるまではかなり時間がかかるという印象を持っていた。従って、総説では一般的な事が総花的に書かれているだけだが、たまたま目にしたDiabetes8月号の仕事は興味深かったので紹介する。この論文は膵島移植のCIT07と言う新しいプロトコルについての治験の途中経過を報告している。このプロトコルでは、取り出した膵島を3日間培養し、その間にリンパ球を取り除いたり炎症を防ぐ処理をして移植する。これによって、移植後ドナー細胞の生着が格段に改善し、1年後でも正常人に近いインシュリン合成能を維持していた。おそらくあまりにも成績がいいために早めの報告が行われたのかと思う。勿論この仕事は膵島移植の新しい方法として位置づけられる、大きな期待が出来る。それ以外にも炎症細胞を除く事で生着が上がる事をヒトではっきり示せた結果は重要だ。炎症につながる細胞を含まない純粋の膵島をiPSなど幹細胞から作る事が可能になれば、それ自身の生着は遥かに今の膵島移植より良い事が予想される。従って、iPS研究にとっても、この仕事は大きな朗報ではないかと思った。
最後に免疫療法についてはClinical & Experimental Immunologyに掲載されたvon Herrath等の総説と、The Journal of Diabetic Studiesに掲載されたWeigmannらの総説を読んだ。両方の総説ともだいたい同じ内容だ。1型糖尿病のほとんどが、自己免疫的機序で起こると考えられている。根治療法としてまず考えられるのが、免疫が成立する過程で病気を防ごうとするものだ。治験では、経口、経鼻など様々なルートでインスリンを投与する事で、インスリンに対する免疫寛容を起こそうとする治療法だ。この治療法は、1型糖尿病の発症前にインシュリンに対する抗体が出来ていると言う結果が根拠になっている。この抗インシュリン抗体が膵島障害の引き金になるのではという仮説だ。この治療は、インシュリンに対する抗体反応を起こさないよう免疫システムを飼いならそうと試みるものだ。総説では、期待の持てるデータが発表されている事に触れた上で、多くの場合は効果が見られない事が多いと結論している。しかし、まだ進行中の治験もあり注目していけばいいだろう。副作用がないとすれば、根治につながる最もコストの安い方法だ。この治療法のもう一つの問題は、発症が確実視される遺伝的背景がある場合は治療として成立できても、どちらか予見できない場合はやはり治療として用いられない事だろう。実際、一卵性双生児でも1型糖尿病の一致率は60%程度である事が知られている。免疫反応とは完全に遺伝だけで決まらない証拠だ。従って、普通に治療に利用されるにはまだまだハードルが高い気がした。
もし抗原特異的な治療が難しいとすると、次は免疫反応自体を抑える治療が考えられる。このため、抗体薬を含む多くの免疫抑制剤の治験が進んでいる。総説を読む限りで長期的効果もありそうに見えるのが、anti-CTLA4, anti-TNFa,, anti-CD3抗体で、気体を示す論文がずいぶんでているようだ。いずれも第3相試験も行われており、注目する必要がある。
最後に、免疫反応を抗原特異的に抑制する重要な細胞として日本で坂口さんによって発見された抑制性T細胞を注射する臨床試験まで行われている事を知り驚いた。実際、両方の総説ともこの細胞の将来の可能性を大きく扱っている。この抑制性T細胞を発見した坂口さんは山中さんと同じ時、京大再生研の教授だった。因縁話のようだが、iPSで細胞治療、抑制性T細胞で免疫治療が完成すれば日本の誇りになるだろう。期待する。
I型糖尿病
2013年9月20日
カテゴリ:疾患ナビ 難病情報