皆様、明けましておめでとうございます。AASJも今年で節目の10周年を迎えます。それだけ私たちも年をとったと言うことですが、事務所の維持を支援していただける間は、老体にむち打ってでも続けていきたいと思っています。
さて今年も伊藤カヲスさんにデザインしてもらった素晴らしい年賀状を添付します。AASJのシンボル、フンボルトペンギンと、今年の干支ウサギが、目の前で起こっている現象について議論しているところです(なぜアリかというと、アリや長い足のイメージを繰り返し使っているサルバトーレ・ダリから、この絵のヒントを得たからだそうです)。メンバーの里美は今年は年女になりました。論文ウォッチでは、この絵のように二人三脚で様々な情報を皆様に伝えていきたいと思います。
さて、新しい年を迎えたとは言え、ウクライナ戦争、コロナ禍と、昨年からの課題は2023年にそのまま重くのしかかっています。プーチンの起こしたウクライナ戦争を見ると、「道徳的判断は理性から引き出されるのではない」と18世紀に看破したヒュームを思います。確かにロシアの言い分を聴けば聴くほど、この認識は当たっていることがわかります。おそらく最近の脳科学も同じ意見ではないでしょうか。このように理性による道徳が存在しないなら、人類は滅亡の淵に立たされているのではと暗澹たる気持ちになります。ただ希望もあります。ヒュームは、少し前にガリレオから始まった科学が、全く新しい人類共通の理性を獲得する可能性があることには思い至らなかったようです。私は、人類滅亡が防げるとすれば、それは科学が示す人間の理解を起点にするしかないと思います。
幸い、昨年のノーベル賞はドイツ・マックスプランク人類進化研究所のペーボさんが受賞しました。ペーボさんの研究により、私たちは生殖を通してゲノムに残される人類交渉の歴史を知ることになりました。特に論文ウォッチで紹介したReichらの論文は、ロシア語も含むインドヨーロッパ語のルーツがアルメニアで、そこからウクライナ地方にわたった後、ロシアも含めヨーロッパ全体に伝搬したこと、そしてこの過程にウクライナ地方ヤムナの人たちのゲノムが、ヨーロッパ全体に拡がったことを見事に示しました。このように、世界は皆兄弟ということが、科学により実感できる時代が来ています。この科学的事実を起点に、ヒュームやスピノザが夢見た自然道徳の手がかりが得られれば、本当の平和が実現できるかも知れません。その時、おそらくペーボさんは世界を救った科学者の一人として名を残すのではと思っています。
今年は、このような視点も交えて、毎日科学論文の紹介に励みますので、よろしくお願いします。