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2月24日:光感受性化合物を目に注射して視力を取り戻す(2月19日号Neuron記事)

2014年2月24日
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昨年3月まで我が国の再生医学のとりまとめ役を勤めていたが、この仕事を引き受けるきっかけは、理研に移るより以前、京大にいた頃文科省が始めた感覚を取り戻すための再生医学プロジェクトの推進委員を引き受けた時にさかのぼる。この時視細胞を失った患者さんの視覚の回復は電子網膜か視細胞移植しかないと想定していた。しかし今日紹介する論文を読んでいろんな可能性があるものだと不勉強を痛感した。カリフォルニア大学バークレー校からの論文で「Restoring visual function to blind mice with photoswitch that exploits electrophysiological remodeling of retinal ganglion cells (網膜神経節細胞を電気生理的に再モデル化するフォトスウィッチを使うマウス視覚の回復)」がタイトルだ。網膜では視細胞により感受される光シグナルが双極細胞を介して網膜神経説細胞に伝えられ、この神経説細胞が視細胞を脳へ投射している。この研究では、DENAQと呼ばれるイオンチャンネルに光感受性を付与できる分子が、光感受性のない神経節細胞を光感受性を持つ細胞へと転換出来る事が示されている。都合のいい事に、神経節が視細胞や双極細胞と結合して正常視覚システムを形成している場合はこの化合物は視覚に対して全く影響せず、視細胞が存在しない場合にだけ神経節細胞を光感受性の細胞に変える事が出来るという。マウスを用いた実験で、この興奮は網膜全体で起こるのではなく、光のあたる場所でだけ起こる事から、一定の画像を認識できる所まで発展できる可能性がある。事実、視細胞の欠如したマウスでもこの化合物を注射されると明るい所での運動性が著しく亢進する事も示されている。もちろん、色を感じたり、複雑なトーンを認識したりするのは難しいと思うが、技術が進めばこれらの問題もかなり解決される可能性がある。細胞が失われた場合細胞治療による再生医学か、電子網膜の様な電子工学しか治療法がないと考えがちだが、このように普通は考えない様な方法にチャレンジする事が本当のイノベーションかもしれない。個人的意見だが、この方法の治験はすぐ始まる様な気がする。視覚については最終的に人で効果が確かめられる必要があり、臨床研究が始まって初めてこの方法のもたらす可能性がわかるはずだ。

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