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9月9日 寝ないで済む突然変異(9月25日号 Neuron 掲載論文)

2019年9月9日
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昼間でも眠たくなる私には想像できないのだが、若い時からあまり寝なくとも何の問題もないという人たちがいるようで、しかもその一部は明らかに遺伝性があることがわかっているらしい。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランスシスコ校のグループは、これまでも短い睡眠でも普通に生活できている(と言うより長い時間寝られない)家族の遺伝子を研究しており、これまでに概日周期に関わるDEC2遺伝子を特定していた。

今日紹介する論文は同じように睡眠の短い家族を解析して、β1アドレナリン受容体の突然変異が短い睡眠しかできないと言う形質を引き起こすことを示した論文で9月25日号のNeuronに掲載されている。タイトルは「A Rare Mutation of β1 -Adrenergic Receptor Affects Sleep/Wake Behaviors (β1アドレナリン受容体の稀な突然変異が睡眠と覚醒の行動を変化させる)」だ。

5世代にわたって4−6時間しか寝られないメンバーが多発する家族の遺伝子を調べ、男女を問わずshort sleeperの全てがβ1アドレナリン受容体(bAR1)の最も保存されている187番目のアラニンがバリンに変わっていることを発見した。さらにこの変異により、bAR1分子が不安定になりcAMP産生が低下する(すなわち機能が低下する)ことを明らかにしている。

誰がみてもshort sleepがbAR1の変異とは全く予想外で、本当かどうかマウスのbAR1に同じ変異を導入して調べている。予想通り、変異マウスの睡眠時間は全体で1時間ほど短い。さらに、起きている時間は普通のマウスより元気に動くこともわかった。すなわち、人の睡眠行動を再現できたことになる。

次にbAR1が発現している脳領域の中で睡眠に関わることが知られている脳のponsに焦点を当て、bAR1を発現している神経細胞の活性が覚醒時とREM睡眠中に高く、ノンREM睡眠時には活動しないことを発見する。すなわちPons背側の細胞が、覚醒を調節している可能性が示された。

これを確かめるため光遺伝学的にこの神経を刺激すると、覚醒時刺激が高まってもほとんど変化はないが、ノンREM睡眠時に活性化すると覚醒することがわかり、この神経興奮が覚醒を誘導することが明らかになった。

つぎにbAR1分子を不安定にする変異の脳生理学的検討を行い、夜間のpons背側神経の活動が高まることを発見し、bAR1の変異によりponsの活動の抑制されており、これが外れることで突然変異を持つ人はPons背側の活性が高まり、睡眠時間が低下すると結論している。

一つの家族の解析から、睡眠についての面白いシナリオを導き出すと言う面白い研究だと思う。人間でないと気づかないことがあることがよくわかる仕事だ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    β1アドレナリン受容体の187番目のアラニンがバリンに変わり、bAR1分子が不安定になりcAMP産生が低下⇒
    夜間のpons背側神経の活動が高まる⇒短時間睡眠となる

    Imp:光遺伝学の応用は広いようです。
    現代文明社会では、short sleeperは生存に有利な変異だと思うのですが。。。

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