AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 4月10日 新型コロナウイルスに対する血清療法:北里柴三郎推薦の治療法 (米国アカデミー紀要オンライン掲載論文他)

4月10日 新型コロナウイルスに対する血清療法:北里柴三郎推薦の治療法 (米国アカデミー紀要オンライン掲載論文他)

2020年4月10日
SNSシェア

医療を行う際の科学的根拠には、メカニズムははっきりしないが経験的に効果があると思う段階、メカニズムが理解できているという段階、そして統計学的に医療効果が確認されている段階まで様々な段階があり、それぞれは必ずしも一致しない。

このことがわかって新型コロナウイルスに対する議論を聞いていると、最終的科学性にこだわった杓子定規な議論が強すぎるように感じる。例えば、アビガンの効果については、理屈としては正しいといえる。なら、ともかく使ってみようかと使って、効果が見られた時、今度は観察研究だから役に立たないと議論が始まる。これは私個人の意見だが、この事態を乗り切るためには、少なくとも理屈があり手に入るならなんでもやってみることも大事ではないかと思う。

今は政府も国民も、この病気に対してレスピレーターとECMOだけが信頼できる科学だと思っているように見える。今こそ現場の裁量で様々な可能性を試し、それを正確に記録した結果が、フィードバックできるシステムが大事ではないだろうか。

理屈があり手に入るという点から新型コロナウイルスに絶対おすすめなのは、回復した患者さんの血清を使ってウイルスを中和するという治療法だろう。この可能性については論文がちらほら出始めていたが、観察研究の集大成ともいえる論文が中国から米国アカデミー紀要に発表された。タイトルは「Effectiveness of convalescent plasma therapy in severe COVID-19 patients (重症Covid-19患者に対する回復者由来血清療法の効果)」だ。

この研究も観察研究で、すでに急性呼吸逼迫症候群(ARDS)を発症した10人の新型コロナウイルス感染患者さん(このうち3人は人工呼吸器装着)に対して、ウイルスに対する中和活性の高い回復患者さんの血清を、発症後11−19日目に200ml、一回だけ投与して様子を見ている。

この研究では血清を調整するため、軽症患者さんで発症から3週目の血液(退院後4日目)を40人のドナーから集めている。新型コロナに対しては抗体がすぐに消えるということが言われているが、細胞にウイルスを感染させる古典的な方法で、ウイルス活性を中和する抗体価を調べると、39人で160倍以上の力価があり、それ以下だったのは1例だけだった。すなわち、時期を選べば多くの軽症者の回復血清を明日からでも集められる。

データの詳細は省くが、感染症に対する免疫の力を示す赫赫たる成果で、3日以内に血清からウイルスが消え、レントゲン所見の回復には時間がかかるが、呼吸不全の症状を含め、検査データも1週間以内に改善する。何よりも、3人は退院、残りも回復して退院を待つのみという結果だ。同じ病院でのそれまでの結果では、ARDSを発症した人の3割が亡くなっている。

この論文以外にも、3月27日号の米国医師会雑誌(JAMA)では、人工呼吸器装着の5例全例が回復したこと、また、Chestには人工呼吸器装着の4例全例が回復(3例は退院)したことが示されている。

確かに全て観察研究だが、もし私が現場で働いていたら、この治療を採用したいと思うだろう。3誌で紹介された全ての患者さんは、様々な抗ウイルス剤が用いられており、重傷者に抗ウイルス剤の効果が限定的であることを示している。観察研究といっても、北里柴三郎以来血清療法の科学性ははっきりしており、しかも北里の時代と異なり中和活性も測れる。

考えてみれば、血清療法を最初に開発したのは我が国の北里柴三郎と、ドイツのベーリングだ。その意味では我が国でも当然推進すべき治療法だと思うが、北里の国、我が国では実現に壁があるかもしれない。

最も重要な壁は、ウイルスの中和抗体の力価を測る感染実験施設の協力だ。検査は簡単で、安全な感染実験ができる場所があればいい。国立感染研や、国立大学など、研究者の貢献が必要になる。緊急措置が出た地域の大学では、全ての研究がストップしており、資源は回せるはずだ。

次に重要なのは、米国アカデミー紀要の論文に示されたように、決まった時期に血液を採取することが必要になる。そのために、軽症者の自宅やホテル隔離の場合でも、決まった時点(発症後3週間?)で採血して、力価を調べる体制が必要だ。

しかしこれらは壁といっても、すぐに解決できる。今日の東京都の統計を見ると、幸い中軽症者が1400人、重傷者は30人に過ぎない。人工呼吸器の数を心配することも大事だが、ぜひこの治療を迅速に導入する体制をとってほしいと思う。

現在多くの製薬会社では、中和モノクローナル抗体の開発が加速している。おそらくこれはワクチンより早い切り札になることは、エボラの経験でもわかっている。ただ、この開発が進められているということは、北里以来の血清療法が可能であることを示している。現場の医師と、政府と科学者の一体となった協力体制に期待したい。

繰り返すが、人工呼吸器だけが治療ではない。現場の裁量で行われる様々な内科的治療の中から、可能性の高いものを迅速にスタンダードとして採用できる体制も重要だと思う。

  1. okazaki yoshihisa126 より:

    感染症に対する免疫の力を示す赫赫たる成果で
    1:3日以内に血清からウイルスが消える。
    2:レントゲン所見の回復には時間がかかるが、呼吸不全の症状を含め検査データも1週間以内に改善。
    3:3人は退院、残りも回復して退院を待つのみという結果。
    Imp;
    北里柴三郎先生以来の感染症に実績伝統を持つ治療法のレポ。ありがとうございます。
    拡散させて頂きます。

  2. tsutsugoh より:

    すみません。観察研究については不勉強なもので、お教えいただいてもよろしいですか。
    個人的に「回復期の患者さん由来の血清を投与する」というものは「通常の診療を超える医療行為」であると思うのですが、これが観察研究に分類されるのは何故でしょうか?

    また、

    >観察研究だから役に立たないと議論が始まる。

    とのことですが、この解釈として、『観察研究は介入試験と異なり、2群以上のグループわけをしておらず、結果を比較できないために「役に立たない」という議論が生まれる』という認識でよろしいでしょうか?

    1. nishikawa より:

      無作為化二重盲検ができていないと、医学的効果判定ができないことは確かで、診療の中での観察だけで最終結果とするわけにはいかないということです。しかし、まず観察研究から始まるのも確かで、今はそれでもいいと思っています。

  3. tsutsugho より:

    ご返信ありがとうございました。
    大変勉強になりました。

    疫学についてもより深く学んでいきたいと思います。

  4. 田中 和夫 より:

     北里研究所が回復者血清からγグロブリンを作成しており、この方が様々な型のコロナへの抗体を含んでいる上に、完全に生成され、感染症の危険性が極めて低くなっています。
     初期にウイルス中和目的で使用し、サイトカインストームには通常のγグロブリンを投与すれば、かなり有効だと考えます

    1. nishikawa より:

      抗体については2回目に書きます。

  5. 田中 和夫 より:

     間違えました。北里ではなく、武田製薬がγグロブリンを作っています。生成も精製の間違いです。

  6. 田中 和夫 より:

     麻疹・水痘へのγグロブリン予防的投与、RSウイルスへのシナジスの予防的投与、川崎病への大量γグロブリンなど、γグロブリンは感染初期に使えば極めて有効であることが既に何年も前から証明されています。
     回復者血清には感染のリスクがありますが、武田のγグロブリン製剤の場合、極めて小さなパルボウイルスB19でさえ除去され、エイズ、HB、HCなどの感染リスクもありません。
     ベテランの小児科医ならば以上の事実は常識的に知っており、安全性も担保されています。免疫血清よりも、回復者から作られたγグロブリン製剤を使用する方がはるかに安全です。
     この使用ならば、人体実験でも何でもなく、既に医学的に確立された治療法を応用するだけです。問題は適応ですが、「重症感染症」で適応がありますから、この病名があれば問題ないと思います。
     批判する方は、まずこれらの医学的な基礎知識を学ばれてからにしてください。

田中 和夫 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.