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4月11日 コカイン中毒に関する新しいメカニズム(4月10日号 Science 掲載論文)

2020年4月11日
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ヒストン修飾はクロマチン構造変化を調節する重要なメカニズムで、エピジェネティックな変化を理解するときのキーになっている。この修飾の中心はメチル化とアセチル化で、他にもリン酸化やユビキチン化も重要だ。

今日紹介するマウントサイナイ大学からの論文はなんとドーパミン神経ではヒストン3をドーパミン化することでクロマチンの調節が、なぜかコカイン特異的に行われていることを示し、コカインとは何かを考えさせる不思議な研究だ。タイトルは「Dopaminylation of histone H3 in ventral tegmental area regulates cocaine seeking(腹側被蓋野のH3ドーパミン化はコカイン中毒を調節する)」だ。

このグループはすでにヒストンがセロトニンと結合することを、セロトニン神経で明らかにしていた。今回の研究はセロトニンがヒストンと結合するなら、同じモノアミンのドーパミンもヒストン修飾に用いられてる可能性を探索していたと思われる。まず生化学的にヒストン3(H3)の5番目のグルタミン、トランスグルタミナーゼによりドーパミンと共有結合すること、そして典型的なドーパミン依存性褒賞反応の一つコカイン中毒者の腹側被蓋野を集めて調べると、ドーパミン化のレベルが低下していることを発見した。

この発見が研究のハイライトで、あとは動物を用いてドーパミンH3の変化と、コカイン中毒について順番に検討している。

まず自分でコカインを摂取するようになった中毒ラットを作って、コカインからの離脱過程を調べると、最初は強く低下していたドーパミン化H3が、離脱後30日目には回復してくる一方、他のヒストン修飾はほとんど変化がないことを発見する。

次にドーパミン化が起こらないH3の変異体をドーパミン神経に導入して、一旦下がったドーパミン化H3が回復できないようにすると、離脱期間中にコカインにより起こる遺伝子変化の正常化が抑えられること、その結果ドーパミン神経の興奮が低下し、コカイン中毒からの離脱ができないことを示し、ドーパミン化がエピジェネティック調節に関わっていると結論している。

以上が結果で、現象論的には極めて面白いと思う。実際、他の褒賞反応を調べても同じことは見られず、腹側被蓋野のドーパミン神経に限れば今のところコカインでだけ見られる反応だ。コカインがドーパミンのトランスポーターをブロックする作用で精神作用を誘導していると考えると、単純にドーパミン依存性の褒賞反応が起こるだけではこの変化は起こらないと考えたほうがいいいのかもしれない。

ある意味で、コカインがあらゆるプロセスをすっ飛ばして褒賞反応を誘導できることを納得した。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:一旦下がったドーパミン化H3が回復できないようにする。
    2:離脱期間中にコカインにより起こる遺伝子変化の正常化が抑えられる。
    3:結果ドーパミン神経の興奮が低下し、コカイン中毒からの離脱ができないことを示した。

  2. 吉田尚弘 より:

    元々遺伝的にdopamine刺激に囚われにくい人がcocaine中毒になったら離脱が非常に難しい、というケースがありそうですね。

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