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4月27日 経頭蓋磁気刺激によるうつ病治療の進歩 (American Journal of Psychiatry にオンライン掲載)

2020年4月27日
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経頭蓋磁気刺激(TMS)は、脳の狙った場所に磁気により一定の周期の刺激を行い、領域内での神経結合を高めたり抑えたりする方法で、脳を操作する方法として実験に使われるだけでなく、難治性うつ病などの治療にも使われて、私もずっと注目してきた。うつ病の治療についてはこのホームページでも紹介した。

ただ、TMSを知った当時の新鮮な驚きが得られなかったためか、最近は紹介する機会が減っていた様に思う。しかし今日紹介するスタンフォード大学からの論文を読んで、うつ病のTMS治療も少しずつ改良が加えられ、信頼できる治療へ一歩一歩近づいていることを知った。タイトルは「Stanford Accelerated Intelligent Neuromodulation Therapy for Treatment-Resistant Depression (治療抵抗性のうつ病に対するスタンフォード式神経調節治療)」で、American Journal of Psychiatryにオンライン掲載された。

フォローしていないので、現在行われている方法と比べてどこが新しくなったのかは完全に把握しているわけではないが、

  • うつ病の場合左背外側前頭前野を標的にTMSが行われるが、この研究では治療前に、各患者さん個別に安静時機能的MRIを行い、神経結合性が低下している場所を標的にしてTMSを行なっている。
  • FDAで認められているθパルス治療は回路を回復させる必要量に達していないと考え、この研究では約5倍の量照射している。
  • 一定期間の休憩を挟んで何回もパルスを誘導する方が回路回復効果があるとするそれまでの研究結果に基づいてTMSセッションを計画している。

などが、スタンフォード式のポイントだと思う。

プロトコルを眺めると、2秒間隔で1800パルスを照射した後、50分休み、また照射休憩、とセッションを10回も繰り返す。すなわち一日中治療にかかりきりになる。機械の能力としては1日に4−5人はさばけるかもしれないが、コストは高くなりそうだ。

しかし効果はてきめんでだ。この研究にはうつ病発症から20年近く経過し、現在うつ病治療の切り札と言われるケタミンも含め様々な治療法にも反応しなかった患者さんだ。そのうつ病の重症度を示す指標(MADRS)が、治療中に劇的に変化して、退院時にはほとんど正常化している。また、徐々に悪化が見られるが、寛解状態を5週間維持することができる。TMS治療がうまくいかなかった患者さんでも同じ様に調べているが、この治療では同じ様に反応する。さらに、自殺の危険性を察知するアンケート方式の調査でも、劇的な改善が見られる。一方、照射中に倦怠感を感じたりすることはある様だが、大きな副作用は全く認められない。

実際の患者さんを見ないで、グラフだけでは実感はないのだが、驚くべき効果を発揮する治療に思える。我が国でも、TMSを用いたうつ病治療は徐々に導入されているが、この方法の有効性がさらに確認されれば、重症例には使える様にすることは大事だと感じた。TMSおそるべし。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ファラデーの電磁誘導の法則を利用した、経頭蓋磁気刺激療法。iPhonの充電装置も電磁誘導の法則を利用して充電できていることを考えると、神経細胞に興奮性電流が流れることも納得できます。

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