AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月7日 ガン免疫増強のための便移植治験(2月5日号 Science 掲載論文)

2月7日 ガン免疫増強のための便移植治験(2月5日号 Science 掲載論文)

2021年2月7日
SNSシェア

慶應大学の本田さんたちによって示された様に、人間の腸内細菌叢の中には、ガンに対するキラー免疫を高める特定の組み合わせが存在する。しかし、これら人間由来の細菌の効果は、これまではマウスの実験系で確かめられてきた段階だった。ただ、あれほどの効果を示されると、当然ガン患者さんで試したくなるのは当然だ。まだ特定の菌を移植するというところまでは行っていないが、便を移植してガン免疫を高めることが、少しづつ始まっている。

今日紹介するのは、チェックポイント治療が効かなくなったステージ4のメラノーマ患者さんに便移植が効果があることを示した研究で、一報はピッツバーグ大学から、もう一報はイスラエル・Sheba医療センターから、2月5日号のScienceに発表された。前者の論文のほうがより詳しい解析が行われているが、後者の論文では移植された便の効果に面白い違があるのを示していたので、こちらを中心に紹介する。タイトルは「Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti–PD-1 therapy in melanoma patients (メラノーマ患者さんの抗PD-1抗体治療抵抗性は便の細菌叢移植で克服できる)」だ。

抗PD-1抗体によるチェックポイント阻害治療も時間を経過すると効果がなくなる場合がある。この研究は1/2相治験で、抗PD-1抗体が効かなくなり、腫瘍が増殖し始めた患者さん8人に、チェックポイント治療で完全寛解した患者さんから採取した便の細菌叢を移植することで、PD-1治療の効果が復活するかどうかを調べている。

治験プロトコルの詳細は省くが、この研究が面白いのは、2人のドナーから提供された便の効果が完全に別れた点だろう。donor1とdonor2と名付けているが、donor1からの弁を移植したケースでは、4人中1人が完全寛解、残りの2人も腫瘍の縮小が見られ、その状態が続いている。すなわち、3/4で反応が見られた。一方、donor2の便を移植された患者さんは、腫瘍が縮小することはなかったという結果だ。もちろん便移植による副作用は認められていない。

この結果はピッツバーグ大学からの論文とともに、便移植は安全で有効な手段として、チェックポイント治療抵抗性の患者さんの治療に使えることを示している。しかし、2人のドナー由来の便の効果がこれほど異なることは、今後有効な便と、そうでない便を区別する方法が重要であることをはっきりと示している。

完全に効果が異なる2種類の細菌叢を発見できたという、意図しない幸運について、もちろんそのメカニズムを明らかにしようと努力している。ただ、本田さんたちがマウスで示した様に、これだという完全な因果性を示すまでには至っていない。面白いのは、服用時の細菌叢の構成はそれほど違わないのに、服用後患者さんの腸内で増殖した後は、はっきりと異なる点だ。また、この違いに対応する細菌も特定され、その中にはこれまで免疫を高める効果が示されてきた種も含まれているが、これが原因だと決めるところには至らない。

ホストの反応側についても調べ、腫瘍内にキラー細胞が浸潤し、また様々な免疫指標も高まることが示して、これが免疫増強によるものであることを示しているが詳細は省く。

要するに、便移植(実際には便の細菌叢をカプセルに入れて服用させる)は、チェックポイント治療抵抗性のガンに効果があることははっきりした。しかも、うまくいく細菌叢とそうでない細菌叢があることから、最終的には最適な細菌が組み合わされた細菌叢移植へ発展させることが重要だということもわかった。とすると、本田さんたちが特定した11種類の細菌セットの効果についての治験結果が発表されるのが待ち遠しい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    要するに、便移植(実際には便の細菌叢をカプセルに入れて服用させる)は、チェックポイント治療抵抗性のガンに効果があることははっきりした。しかも、うまくいく細菌叢とそうでない細菌叢があるらしい。
    Imp:
    腸内細菌から分泌される“何か”?が免疫系に作用しているのでしょうね。

  2. 本田賢也 より:

    西川先生、
    慶應の本田です。いつも私たちの仕事を紹介してくださり有り難うございます。

    この2つのScienceの仕事以外にも、チェックポイント阻害療法とFMTを組み合わせた治験が進行中のようです。FMT studyからのサンプルは、とても重要な知見をもたらすものと思われます。

    また、2つのScienceの仕事で興味深いと思っているのが、効果が見られた患者さんの中でも複数の方が、しばらくの時間(数ヶ月)を経てから徐々に病巣の縮小が見られるという点です。腸内細菌によるCD8 T細胞誘導だけであれば、それほどの時間を要するという感じはしないので、CD8 T誘導以外にも複数のメカニズムが複合的に働く必要があり、それには時間を必要とするのかもしれません。

    私たちが同定したCD8 T誘導性11株も、同じようなセッティングで米国で臨床試験中です。また近々ご報告できればと思います。

    1. nishikawa より:

      直々に情報を教えていただきありがとうございます。期待しています。

okazaki yoshihisa へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.