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2月18日 RNAウイルスから我々を守るネアンデルタール人のレガシー(2月15日 米国アカデミー紀要オンライン 掲載論文)

2021年2月18日
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昨年10月、ネアンデルタール人ゲノム解読を成し遂げたペーボさんたちは、Covid-19による重症化リスクに関わるゲノム多型の一つがネアンデルタール人由来であることを証明した衝撃的論文をNatureに発表した(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13992)。実際、この論文は多くのメディアで取り上げられた。このとき、ゲノム人類学者としてCovid-19理解に貢献したいと思うペーボさんの気持ちが伝わってくる気がすると述べたが、その後もCovid-19とネアンデルタール人遺伝子との関りについて研究を続けていたようで、今度はCovid-19から我々を守ってくれるネアンデルタール人のレガシーを発見し、2月15日米国アカデミー紀要にオンライン発表している。タイトルは「A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals(ネアンデルタール人から受け継いだCovid-19重症化から守るゲノム領域)」だ。

研究手法は前回と同じで、Covid-19患者さんのゲノム研究から明らかになった遺伝子多型の中から、アフリカ人には全く存在せず、ネアンデルタール人には存在する多型を探し出し、見つかると発見された領域が本当にネアンデルタール人由来かどうかを様々な方法で検証している。

こうして今回見つかったのが12番染色体上の75kbの長さの領域で、現代人に流入後、全くランダムに組み換えを繰り返した場合に想定される最長のネアンデルタール人由来ゲノムの長さ16.3Kbを遥かに超えているので、環境による選択圧がかかって維持されてきたと考えられる。

前回と異なり、ネアンデルタール人由来多型を持っている人は、集中治療が必要になる率が2割程度下がる。すなわち、この多型を持っていると、重症化しにくい。

さらに、前回と違いこの多型の領域にOAS1-3の3つの同じ機能を持つ遺伝子が存在しており、これらはインターフェロンや二重鎖RNAにより誘導され、RNAを分解する酵素を活性化し、二重鎖RNAを分解するという、まさにRNAウイルスの防御に関わる遺伝子であることがわかった。

しかも、ウイルス感染でのOAS変異の役割についての研究が行われており、ネアンデルタール型スプライシングにより形成される分子が、通常型より高い酵素活性を持つことが明らかになっている。

さらに、OAS1のネアンデルタール型のミスセンス変異がSARSに対する抵抗性を付与することも、小規模な研究だがすでに報告されている。

以上のように、今回見つかったネアンデルタール型多型は、ドンピシャでRNAウイルスに対する防御機構がネアンデルタール人から受け継がれ、現在も維持され、今回のコロナ禍で人類を守ってくれていることが明らかにした。

最後にペーボさんは、これまで調べられた様々な時代のホモサピエンスのゲノムを調べ、時代とともにこの多型の頻度が上昇し、現在ユーラシア全土で2−3割の割合で広がっていることを示し、人類がこの遺産を使って生き延びてきたことを示している。

前回以上に楽しんだ論文だった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    今回のネアンデルタール型多型は、RNAウイルスに対する防御機構がネアンデルタール人から受け継がれ、
    現在も維持され、コロナ禍の人類を守っていることが明らかに。
    Imp:
    コロナ禍:現代の出来事のように感じますが、実は壮大な“生物進化”の結果が表面化した現象でもあります。
    『我々は過去の遺物に過ぎない』

  2. 青野裕士 より:

    興味深い見解です。新人類のアフリカ脱出から、シリア辺りで、ネアンデール人と、混血がおこり、中国、東アジア、東南アジアに移動し、定住したと仮定すると、COVID19の流行の勢いが欧米より低い原因に結びつくのでは。

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