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5月24日:膵臓がんの間質反応(Cancer Cell誌オンライン版掲載論文)

2014年5月24日
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がんの中でも悪性度の強い膵臓がんは、周りの強い間質反応が特徴だ。同じように間質反応が強いがんにスキルスと呼ばれる瀰漫性胃がんがあり、やはり悪性度が高い。このことから今日紹介する論文を読むまで、私は間質反応とがんの悪性度の間には正の相関があると考えていた。ところがCancer Cellオンライン版に掲載された2編の論文は、これが全く逆で、間質反応はがんに対する防御反応で、間質反応が無くなるとがんがもっと悪性になる可能性を示唆している。一つはミシガン大学から、もう一つはMDアンダーソンがんセンターからの仕事で、それぞれ「Stromal element acts to restrain, rather than support pancreatic ductal adenocarcinoma (間質反応は膵臓がんの支持ではなく抑制に関わっている)」「Depletion of carcinoma-associated fibroblasts and fibrosis induces immunosuppression and accelerates pancreas cancer with reduced survival(がん周囲の線維芽細胞と線維化を除去するとがん免疫が低下し膵臓がんの増殖が促進する結果生存率が低下する)」だ。最初の研究では、shhと呼ばれる遺伝子の機能を膵臓細胞で抑制する、あるいはこのシグナルに関わる受容体機能を薬剤で抑制すると膵臓がんの悪性度が高まるが、これががんの周りの間質反応が消失によることを示している。これまで間質反応を抑える目的で、このシグナル阻害が試みられたが、まるで反対の結果だ。2編目の論文では、遺伝子操作により線維芽細胞を直接除去できるようにしたマウスで膵臓がんを発生させ、線維芽細胞を除去するとやはり膵臓がんの悪性度が上昇することを示している。この意外な結果が人間の膵臓がんにも当てはまるのか確かめる意味で、新しく間質反応と悪性度の相関を調べてみると、人間でも間質反応が高い方ががんの予後が良いことがわかった。これまで間質反応の強い膵臓がんでは、がんを栄養する血管が少ないことが知られていたが、間質反応ががんを抑制するメカニズムの一つはがんを栄養する血管が減ることであることも示されている。最も私の興味を惹いたのは2番目の論文で、がんの周りの線維芽細胞を除去するとがん抑制免疫反応が低下するが、抗CTLA-4抗体で間質反応と同じ抑制効果を得ることが出来ると言う結果だ。間質反応の多彩な機能をかいま見ることが出来る。今日紹介した論文はともにマウスモデルについての研究だが、抗CTLA4抗体の効果、がん血管抑制の効果など、多くの点で人間の膵臓がんに近い。既に述べたように間質反応はがんを促進していると考えて、shhを抑制する治療が試されたこともある。この研究からわかるようにshh抑制治療は効果がなかった。逆に、今回の仕事により間質反応を強化してがんを抑制すると言う新しい可能性が生まれた。期待したい。しかし、常識とは疑うためにあることをまた思い知った。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    間質反応と悪性度の相関を調べてみると、人間でも間質反応が高い方ががんの予後が良いことが判明した。

    間質反応はがんを促進しているとの仮説→shhを抑制する治療が試された。この研究からわかるようにshh抑制治療は効果がなかった。

    間質反応制御もターゲットの一つの可能性あり。

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