AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月24日 ポリネシア民族の形成過程(9月22日 Nature オンライン掲載論文)

9月24日 ポリネシア民族の形成過程(9月22日 Nature オンライン掲載論文)

2021年9月24日
SNSシェア

南太平洋の島々には、いわゆるポリネシア人が分布しており、紀元800年前後にサモアから、カヌー一つで広がったことが知られている。実際、台湾の現地人もこの系統に当たると聞くと、未知の島を求めて片道の旅に出かける勇気があったのか、陸上の歴史しか知らない私たちにとって、最も興味が引かれる点だ。

今日紹介するスタンフォード大学、コンピュータ計算科学研究所からの論文は、インフォーマティックスを用いてこの謎に迫った研究で、9月22日Natureに掲載された。タイトルは「Paths and timings of the peopling of Polynesia inferred from genomic networks(ゲノムネットワークから推論されるポリネシア人の移住経路と時期)」だ。

この研究では、計算科学の人たちとゲノム科学の人たちが、しっかりとタッグを組んで、集めた現存のポリネシア人DNA情報を必要なアプリケーションを開発しながら解析し、移住の方向性や時期を完全に特定している。

私も素人なので具体的な方法の詳細は把握していないが、1)ポリネシア以外からの様々なゲノムインプットを完全に除外して純粋なポリネシア人の標識のみを用いて、それぞれの島の人たちを比較したこと、2)島から島へと大人数が移動するはずはないので、新しい島へ移動するたびに、ゲノム多様性が低下すると想定し、急速に起こる多様性の低下を利用すること、3)共通に存在する遺伝子の長さをもとに世代計算を行うことを組み合わせて、いつ、どこからどこへ、移動が行われたのかを計算している。

結果は、これまでのアイソトープや、遺物を用いた結果とと大きく変わることはなく、最初紀元800年ごろサモアから2000キロも離れたRarotongaという島に定着した一群の人たちが、紀元1100年から移動を始め、400年をかけて、島から島へと飛び石伝いに広がって、最後はサモアから6000キロ以上離れたイースター島にまで到達しているプロセスを明らかにしている。すなわち、最初にアメリカ現地人と出会ったユーラシア人は、コロンブスではなく、ポリネシア人ということになる。

この移動を飛び石伝いと表現したが、要するに一つの島に定着した後、一定期間後にまたカヌーの旅を始め、次の島へ移動する過程が繰り返されている点で、これを可能にした文化、精神性、身体性には驚く。

おそらく手こぎのカヌーといった単純なイメージではないだろうが、水にしても食料にしても、そう多くは携行できないだろう。とすると、海の上ですべてを調達できる知恵と、それでも厳しい条件に耐えてカヌーを操作し続ける驚異の身体性、そして星を使った海洋術、さらに遠く見えない島を信じて大洋へ漕ぎ出す精神性を備えていたはずだ。この一部は、今回抽出されたポリネシア人特有の遺伝子領域からある程度解析可能かもしれない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    未知の島を求めて片道の旅に出かける勇気があったのか、陸上の歴史しか知らない私たちにとって、最も興味が引かれる点だ
    Imp:
    ご紹介頂いた“人類の起源”シリーズの論文から、
    古代人も現代人に負けないくらい世界を駆け巡り、交易等の経済・交流活動を活発に営んでいたことが理解できます。

okazaki yoshihisa へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.