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9月25日 アルツハイマー病を青班核の病理から見直す(9月22日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月25日
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最初、アミロイドβが蓄積することが神経死を誘導するのがアルツハイマー病と単純に考えていた頃から考えると、今はその病態理解はもっともっと複雑になっている。私個人の頭の整理として、アルツハイマー病の神経死は、細胞内のリン酸化Tauが線維様に絡まった蓄積物(fibrillary tangle)を形成することが直接の原因で、このtangle 形成過程をアミロイドβの蓄積が、おそらくグリアを介して影響すると理解している。この神経内のtangle 形成については、Braak stagingとして詳しく病理学的に解析されている。

この理解にたって、リン酸化Tauのtangle 形成を病理学的に調べる研究が進み、例えば嗅内野でのタングル形成がアルツハイマー病(AD)の初期から見られ、認知機能と深く関係することも明らかになってきた。さらに驚くことに脳幹の小さな青班核と呼ばれる神経核では、50歳代の正常人でも、なんと50%にtangle 形成が見られることが明らかになり、ここで始まったTauの異常が嗅内野を通って皮質全体に伝搬するかどうかが、ADの発症を決めるのではと考えられるようになっている。ただ重要性はわかっても、この青班核は1−2万の神経細胞からできた極めて小さな神経核なので、死後解剖以外ではその異常を特定することが困難だった。ところが、最近になって3TMRIといった高解像度のMRIが用いられるようになり、青班核密度(LC密度)をADの初期診断に使えないか期待が集まっている。

前置きが長くなったが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、認知機能を追跡するコホート研究参加者の中で、様々な認知機能とともに、MRIでのLC密度、またAβやTauの広がりについてのPETデータが得られ、死亡後解剖して青班核の病理が正確に調べられているケースについて、それぞれの検査データを青班核の病理と相関させることで、LC密度が初期診断に利用できる可能性を調べた研究で、9月22日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「In vivo and neuropathology data support locus coeruleus integrity as indicator of Alzheimer’s disease pathologyand cognitive decline(生存中のデータと死後の神経病理データから、青班核の密度がアルツハイマー病の病理と認知機能の低下の指標になることがわかる)」だ。

極めて膨大な研究で、詳細は省くが、まず結論を紹介すると、「MRIで得られるLC密度は、嗅内野のTau蓄積を反映しており、高齢者で特にAβ蓄積度の高い人では、認知機能の低下と相関している」になる。ただ、これだけでは素っ気ないので、個人的に気になった結果を箇条書きにまとめておく。

  1. これまでの研究で、LC密度は、Tau蓄積によりノルアドレナリン神経のメラニン顆粒の脱落などが反映され、Braakのtangle形成による神経編成過程の病理ステージを反映している。
  2. LC密度が低下と、Tauの蓄積は強く相関する。特に、認知機能障害の見られない人では、LC密度は、嗅内野のTauの蓄積と密接に相関しており、LCの病理から、Tauによる変異が広がる初期過程をキャッチできる。
  3. この初期変化は、Aβ蓄積より早く起こる。従って、Aβの蓄積が一定レベルに達すると引き金になってTau病変が進むのではなくTau病変が先にあって、その過程をAβの蓄積や老化が修飾する。例えばAβ蓄積が進んだ人でLC密度が異常の場合、広範なTau蓄積が見られ、多様な認知機能が傷害される。

ほかにも様々なデータが示されているが、LC密度を中心にADの病態を整理してみることで、より包括的なAD理解を進め、新しい治療法も開発できることを示している。実際、青班核はノルアドレナリン神経の塊で、様々な場所に投射しており、最近では長期記憶にも関わることが知られていることから、治療標的としては面白いと素人ながらに思う。

ディスカッションを読んでみると、動物で青班核にリン酸化Tauを注入する実験が行われており、ここからTauの変成が脳の様々な場所に伝播することが示されているらしい。だとすると、青班核の病理研究は、50歳で半分の人がすでにAD予備軍となっていることを示しており、なぜ半分だけなのか、また何が伝搬の引き金になるのかなど、面白い課題が山積みだ。いずれにせよ、青班核からADを見るのは複雑なAD病理を理解するための頭の整理になった。

  1. okazaki yoshihisa より:

    MRIで得られるLC密度は、嗅内野のTau蓄積を反映しており、高齢者で特にAβ蓄積度の高い人では、認知機能の低下と相関している。
    Imp:
    パーキンソン病のαシヌクレインのように神経線維に沿って拡散するのでしょうか??

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