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12月12日 アディポカインFABP4は膵臓のインシュリン分泌を抑える:糖尿病治療の画期的標的になるか?(12月8日号 Nature 掲載論文)

2021年12月12日

なぜ肥満は健康を冒すのか、阪大の松沢先生など多くの開拓者の研究が行われてきたが、脂肪細胞から分泌されるアディポカインがその鍵を握っていることは確かだ。この中にはメタボに対してよい効果を示すアディポネクチンのようなアディポカインも存在するが、逆にインシュリン抵抗性を促進すると考えられているのがFABP4だ。FABP4はもともと自由脂肪酸の脂肪組織からの分泌に関わり、飢餓状態でエネルギーを脂肪組織から他の組織に移動させる役割を担っていた。さらに、脂肪組織だけでなく、アディポカインとして体の様々な細胞を、飢餓に適応したエネルギー代謝に統合する役割も担っていた。ところが、人間が飢餓を経験せず過食になると、飢餓に備えるFABP4は逆にメタボを促進する原因になる。特に、インシュリン抵抗性と糖尿病のリスク因子になることが、FABP4ノックアウトマウスの解析から示唆されていた。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、FABP4の膵臓β細胞への作用の分子メカニズムを解明した重要な研究で、12月8日、Natureにオンライン掲載された。タイトルは「A hormone complex of FABP4 and nucleoside kinases regulates islet function(FABP4のホルモン複合体とヌクレオシドキナーゼが膵島の機能を調整する)」だ。

FABP4ノックアウトマウスでは、ブドウ糖に反応するインシュリン分泌反応が高いことが知られており、この研究ではこの原因の一つが、膵臓の膵島の数がFABP-KOマウスで高まっていることを確認する。すなわち、FABP4は膵島に直接働くアディポカインであることがわかる。実際、2型糖尿病だけでなく、1型糖尿病でもFABP4の分泌が高まり、またFABP4ノックアウトマウスを1型糖尿病マウスと掛け合わせると、β細胞数が低下するのを抑えることができる。また、FABP4に対する抗体でも、1型糖尿病の進行を遅らせることができる。

以上のことから、FABP4 が直接β細胞に働き、様々なストレスによる細胞死を抑えることがわかるが、不思議なことにβ細胞の培養系にFABP4を加えても何の変化も起こらない。

この不思議を、FABP4がβ細胞に働くには、体内の他の分子と結合して初めて作用を持つと着想し、最終的にFABP4が細胞外のアデノシンキナーゼ(ADK)と結合したときに、試験管内でのβ細胞のブドウ糖依存性インシュリン分泌を誘導できることを発見する。すなわち、一般的なアディポカインと異なり、細胞外のADKとセットで効果を示す不思議な分子であることを明らかにした。

この複合体のβ細胞への作用をさらに詳しく調べ、ちょっと複雑でわかりにくいと思うが以下の様なシナリオを提案している。

まず、ADKはnucleoside diphosphate kinase (NDK)と複合体を作っており、細胞外のADPとATPのバランスをとっている(ADKはATPを上昇させる)。FABP4はADKと結合して、ADK活性を高め、NDK活性を抑えることで、細胞外のATPを高める。一方、FABP4が存在しないと、このバランスはNDKへ傾きADPが高まる。このADPは、P2Y受容体を介して細胞内のcAMP合成を抑える。β細胞ではこのcAMPシグナルがカルシウムの小胞体と細胞質間の移動に関わり、インシュリン分泌に必要なカルシウム流入効果を変化させる役割を持っている。すなわち、FABP4がNDKと結合して、ADP量が低下し、P2Y シグナルが低下すると、cAMPが上昇して、ERから細胞質へのカルシウム移動が誘導され、インシュリン分泌に必要なカルシウム流入効果が減弱し、インシュリン分泌が低下することになる。

少しわかりにくかったかもしれないが、FABP4がなぜインシュリン分泌を抑えるのかが初めて説明された。当然この結果、1型であれ、2型であれ、FABP4が高いとβ細胞へのストレスが上昇し、インシュリンが出ないだけでなく、β細胞の変成が起こり、糖尿病が進行すると考えられる。

もちろん、FABP4は様々な臓器に対して効果を持っており、全てがこの経路かどうかはわからない。従って、糖尿病の進行を抑える目的でFABP4の機能を抗体でブロックしていいかどうかは今後の研究が必要だろう。しかし、膵臓β細胞でP2Yシグナルをもし高めることができれば、細胞のストレスを改善できるという発見は、全く新しい糖尿病治療に向けた治療法の開発につながる期待を持っている。しかし、糖代謝は複雑だが面白い。


  1. okazaki yoshihisa より:

    膵臓β細胞でP2Yシグナルをもし高めることができれば、細胞のストレスを改善できるという発見!!
    Imp:
    DM薬の新たな種の発見!?

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